王と道化とその周辺

ちっぽけ嘘世界へウインクしておくれよBaby

言いたいことは言っておけ(あるいは、『虎者-NINJAPAN- 2020』前夜としての現状の所感)

 エンターセブン超楽しかったね!!!!  
 と、感想文もろもろの記事はまだまだまとめ切っておらんのですけども、緊急特別記事として今書きたくなったことを今書きます。
 議題は目下ツイッターランドで紛糾中であるらしいところの、ある記事について。
 

時は遡って昨年11月、

 我が推しであるTravis Japanの初主演舞台『虎者-NIN JAPAN-』(以下、『虎者』と表記)が東京・京都・愛知・広島にて上演された。FC枠チケットは案の定とれなかった私だったが、母親が御園座のプラチナ会員だったためギリギリのギリで滑り込んだ。
 そう、滑り込んだ。
 入っていました、11月22日の南座と、11月26日の御園座
 
 推しの初主演舞台。夏に公開された初のMV。地元での公演と併せて各地で行われた、初めてのTVやラジオでのプロモーション。初めて正式に己がものとして手に入れられたチケット。会場には様々な想いを募らせたオタクたちがいて、その中に私もいた。書くべきことは山ほどあった。けれど、結果として、今このブログの記事に、『虎者』の記事はない。過去記事一覧は『Endless SHOCK 2019』の次に『PARADE』の記事へと飛ぶ。
 それはなぜか。
 単純(ツンプル)に、書けなかった——否、書かなかったからである。
 

出せない手紙の置き所

 とはいっても、まったく一行一文字も書かなかったわけではなく、書きかけの記事はメモ帳の下書きとして残っている。いつも通りの脳直メモと、それをまとめて清書しようとしたものだ。今読み返しても当時の困惑ぶりがうかがえる内容になっている。
「困惑」というのもだーいぶ綺麗めに言い換えたフレーズで、脳直メモに綴られた反応はといえば「は?」「いやいやいや」「うーん。。。」「どゆこと??」つまるところ私にとってあの舞台の、未来の忍者をモチーフにした物語であるところの一幕は、ツッコミどころが多すぎてじっくり味わうこともままならない、「凡作」どころか「駄作」とも言えない何かだったわけだが、それでも、飲み込みづらいそれをなんとか咀嚼し、嚥下し、消化しようと試みている。試みてはいたのだが、やっぱり難しかった。手をこまねいている間にも新たな情報は次々入ってくるし、12月はJUMPツアーだし年末年始だし年が明けたら依頼原稿で半月カンヅメだし表じゃなんか疫病とか流行ってるし、で、放置したままいたずらに歳月を重ねていった。
 ——でも、でもだ。やろうと思えばやれたはずだ。もとより筆が早い方ではない(その分の文量はあるつもりだ)が、その気になれば3週間で3万字打てる。たった二回しか見てないし、言ってもそれは『Shock』やJUMPツアー『PARADE』とて同じだ。
 要するに、それらと同等の熱量を『虎者』には見いだせなかった。結果として表出したのはそれで、それがすべてである。「感想がないのが感想」だったのだ。
 

『STAGE Navi』2020 vol.48掲載記事と、我々の反応

 そうして、かの舞台の記事はついに書かれないまま、時は戻って現在、2020年10月。
 TV navi派生の舞台情報誌『STAGE Navi』(以下、『ステナビ』と表記)に、『虎者2020』に向けてのインタビュー記事が掲載された。8月頭のソロコンを終え、9月末にグループでの配信コンサートもあり、すぐに『虎者』の公演が始まるという過密スケジュールの中、単発のプロモーションから連載まで多数の雑誌にTravis Japanは掲載された。その中のひとつである『ステナビ』の記事でのメンバーの発言がSNS上で物議をかもしている。私は何も知らず店頭で手に取り、ざっとテキスト量を見て購入を決め、話題になっていることを知ってからページを開いた。
 いくつか議論の的となるトピックがあったようだが、とくに気になったくだりを以下に、引用する。

松田「(前略)この『虎者』という舞台では、ファンのみんなにはしっかり「作品」を見て欲しい。」
松田「例えばタレントが今日髪型違うとか、前髪があるからかわいいとかじゃなくて、しっかり作品の世界を見て欲しいんだよね。もちろん生の舞台で好きな人の顔が見られるのはうれしいのはわかるんだけど、もう少しストーリーとか芝居とか細かい部分も見て欲しい。」

宮近「スタッフさんとか本を書いている人とか、作り手の考えを一つ考えたとしたら、受け取り手も違う視点が持てると思うんだけどね。今日あいつブスだった、みたいな感想でもいいんだけれど、もし作り手の思いを少しでも感じたら本当はそういう感想は出てこないんじゃないかなとも思う。」

川島「作品を見に来てタレントを見るという姿勢も全然悪くないと思うんだけど、俺が見られるタレントの立場で、ファンに表面的な事しか感想を抱いてもらえなかったら「俺の力不足なんだな」と思うな。」

 このインタビュー自体の問いの立て方だとか、編集の切り出し方の問題だとか、そういうことは今ここで深堀りするつもりはない。私が引っかかったのは、引用したくだりに対し、ツイッターランドで散見されたファンの反応のほうだった。
 「本音を言ってしまうとネガティブな感想しか出てこないけど、タレントたちがめちゃくちゃ頑張っているのはわかるから、作品の出来には触れず、表面的な、ヴィジュアルの感想で茶を濁していたのだ」
「そのストーリーが面白くなかったからヴィジュアル面やパフォーマンスのみの二幕の感想中心になるのは仕方ない。タレントや身近なファンに配慮した結果だ」

 改めて明文化されたこの言説を見て、もとより抱いていた違和感が噴出したのだ。
 それってなんか違うくないか? だって「脚本」と「役者(タレント)」は別の仕事なんだから。
「構成」や「脚本」の粗を指摘することで、タレントが傷つくということになるのか?
「演技はよかった。アクションも迫力があった」「だがストーリーはちょっといただけない。変な脚本だと思う」という感想を並列すればいいだけではないのか。
「推しががんばっているからホンが悪いと言えない」は、逆なんじゃあないのか。「素晴らしい推しの力量に見合った作品を・脚本を用意しろ」と指摘すべきところではないのか。
 最高の食材をそろえても出鱈目なレシピではまともな料理を作れない。演技がまずいと話が伝わらんかもしれんが、話がつまらなく感じるのは必ずしもタレントの責任じゃない。そんなことは自明のはずだのに。

それでも言いたいことはある

 前段で引用した発言の中の「スタッフさんとか~」のくだりを改めて見返すと、舞台は表で演じている役者だけのものじゃなくて、企画、構成、演出、脚本など様々な仕事があって成立しているから、役者以外の仕事ぶりにも意識を向けてほしい、と言っているようにもとれる。(この見方はさすがに裏の読みすぎだろうが、昨年の様子をふまえると「脚本という仕事が弱い」ことへ言及して欲しかったんじゃないかという風にすら思える)そこで、昨年の観劇からずっと気になっていたことが思い起こされた。
 私はジャニーズ純正の映画や舞台にまだ昏い。『Shock 2019』と『虎者』しか見ていない。なので他のジャニーズ内部舞台がどうかはわからないのだが、この二つの舞台のパンプレットを見て驚いたことがある。制作スタッフクレジットの中に「構成・演出」の記載はあっても、「脚本」はクレジット自体がない。脚本家がシナリオを書いているわけではないのだ。まず、ここに「なんでやねん」と思う。
 私、自慢も謙遜もなく事実として、創作(ライティング)とその研究で6年学んで阿部ちゃんと同じ修士とってる人間でして、ある程度は創作物の見方とかシナリオの技法とかも学んできてるんでより強く感じるんですけど、曲がりなりにもストーリーがあって台詞がある、台本の存在する舞台で、脚本およびそれに類する仕事が名目上でさえ「ない」のってちょっとどうかと思うんですよ。「責任の所在」を明白にしてないってことだし、シナリオライティングという仕事それ自体が軽んじられているように思える。
『Shock』も脚本家としてのクレジットはないけれど、ショーの世界に生きる人間のドラマであること、登場人物の関係性も感情の流れもスッと理解できる。ラスボスを作中で3回も殺したりしないし、「謎の女」と言った3秒後に「娘」とバラしてしまうような意味不明なことは『Shock』では起きていなかった。登場人物の心の動きと、行動とをきちんと結びつけて考えることができた。一幕の台詞が二幕の展開の伏線になっているところなんて見事なものだ。主に働いたのがジャニー喜多川氏か堂本の光一さんかは知らないが(概ね共作だったのだろうけども)プロの仕事は出来ていた。でも、誰の仕事なのかわからんということは「責任の所在」がわからないということであり、「良かったときの評価」だってしようもないので、やはりクレジットは欲しいなと思う。
 こういった脚本の軽視(とも見える作品の表出)は、「一見わけがわからないかもしれないけど、これは演じている役者そのもの・ジャニーズという存在そのものの戯画・抽象表現なのだ」だとする『映画 少年たち』の批評文を読んだときにも感じたことで、「そこまでハイコンテクストで複雑な読みが必要とされる作品なら、ジャニオタ以外の人は端から対象じゃないってこと?」という風にしか受け取れなかった。というか、当のオタクたちも多くが「わけがわからない」と感じていたらしいので、オタクにさえ伝わってないものはオタク以外にはもっと意味不明だったろう。
 そして、わたしが『虎者』の一幕を読み解こうと奮闘していたときにも、念頭にあったのはこの「演者のバックグラウンドを元にしたハイコンテクストで複雑な読みを要求する作品」としての読み方だった。「ただわけがわからない」「お話作りが下手」なんじゃなくて「読み切れていない部分がある」可能性に賭けたのだ。彼らの置かれている状況、キャラクター性(『虎者』においてTravis Japanの各メンバーには役名すらない!)ラスボスの父性のメタファー、女……と考えていくうちにだんだんイライラしてきて投げた。この読み方が正解だったのだとしても、やっぱ、作品自体の世界観のみで完結しないって、商品としてはいびつで不完全で、一般流通に乗せちゃダメなやつでしょ、という感覚が拭えなかった。分厚い設定資料集を読み込んで初めて理解できる話、おもしろいか? やってもファンクラブ限定コンテンツどまりでしょうよ。もしくは二次創作同人誌か。
「伝わらない話」をポンと出して満足しているのは奇妙な態度だし、そこには観客への「ナメ」があるように感じるのだ。「どうせタレント目当てに見に来るでしょう」という。

wagamama-otaku.hatenablog.com

 この、「どうせ顔しか見てないだろうから話も演出もテキトーでいいよね」「話マジつまんなかったけどつまんないって言ったらがんばってる推しくんが傷ついちゃうから言わないでおいてあげよう」みたいなのってお互いがお互いをナメくさっとる最悪の状態だと思うんだよな。
 プロがプロの仕事をするのは当然だろうし、客はそれを求めて、相応の対価を払ってしっかり仕事を受け止める。そういうもんじゃあないのかと。
 ネガティブな意見を書いて空気が悪くなるが嫌だ、といっても、別に本題と関係ない容色や人格まであげつらって悪口雑言並べてるってわけじゃあないだろう。「ストーリーの整合性がとれていない」「人物の関係がわかりづらい」「なんで急に呼び方変えた?」程度のことは叩きでもなんでもなく、制作陣がきちんと受け止めて見直すべき作品の穴だ。「1+1は3です」と言い張られたときに「特別な理由がない限りそれは絶対違うと思う」と返すような話なのだ(「1+1は3です」に「これだから◎◎人は」「ブスが口きくな」と返したらそれは誹謗中傷だからやめましょう)
 私は『虎者』の感想文を昨年内にでも書ききるべきだった。「感想がないのが感想」などと察し待ちをせず「わかんねーもんはわかんねー! ちゃんと説明しろ!」とぶっちゃけてやるべきだった。真剣に推しと戦う者として不誠実な態度だった、と猛省しきりである。
 
 私は正直なので、『トリニク』みたいな番組は見たくないから見ないし、YouTubeも見たいときに見るし、CDもグッズも雑誌も欲しいものを欲しい分だけしか買わないし、「Jr.大賞」には同意できる内容になるまで(そんな日は一生来ないだろうけど)参加しないし、どんだけでかい仕事に繋がるイベントだろうが「五輪は中止にしろ」と言い続ける。
 どんだけ推しの仕事が増えたって、そのクオリティが低かったり、差別や暴力に加担するような価値観に染まっていたり、間違ったことを伝えるメディアだったりしたらちっとも嬉しくない。辞めてくれと思う。そこら辺歩いてる若い女の子捕まえてきていきなり難しい料理させて失敗する様子を上から目線であざ笑う番組にトラジャくん出て欲しいですか? ぼかぁ嫌ですよ。考えただけで虫唾が走る。
 そうならないためにも、「そういうのはちょっとどうかと思う」を声に出すべきだ。同時に、歓迎すべき仕事には感謝を送って次に繋げ、推しの素晴らしい仕事には称賛を送るのだ。健康な推し活動は斯くあるべきだ、と私は思う。

来るべき『虎者2020』配信に向けて

 そんなこんなでちんたら記事を打っている間に、『虎者2020』WEB配信が決定していた。
 10/26(月)昼夜2回。アーカイブなし。抽選。WEB配信の抽選ってなんでやねんと思うが、視聴権の抽選は先日の『Eternal Shock』でも試みられたもので、回線安定に向けての微調整でほとんど落選がなかったらしい。微調整のうちに含まれないよう祈るしかない。
 
 すでにこの公演グッズの通販初動分が届き始めていて、なんと今作では、それなりの実績をもった脚本家が「脚本」としてクレジットされていることがパンフレットの記載で判明している。雑誌等でも「今回はガラッと変わっている」「台詞の量が比べ物にならないほど増えた」とメンバーが語っていたが、それはちゃんと脚本家が脚本家として制作に携わった結果なのだろう。
 ……つまり、その、なんだ、初演のアレがまずかったって自覚あったんじゃーん。
 (前年の成果によって外部の人を雇えるくらいの予算つけてもらえたんだな、というシビアでリアルなゼニの話でもある。)  
 となればあとは話が早い。我々は今作を見て、初演時と比較しながら、思う存分語ることができる。
 WEB配信という、共通の時間に全国で一斉に見られる機会があるのも大きい。ネタバレとか気にしてたらハッシュタグもトレンドもナニもないですからね!
 語ろうじゃあないか。目撃したものすべてを。言いたいことは言ってOKだとお墨付きもいただいているわけだし。