王と道化とその周辺

ちっぽけ嘘世界へウインクしておくれよBaby

もう一度生きるための音楽(松本明人『REBIRTH』発売によせて)

 配信開始の18日深夜0時に端末へDLした。そのまま聴き始めることもできたが、一晩寝かせることにした。新しい朝にこそふさわしいと思ったからだ。

 ちょうど8カ月前の2023年2月18日、真空ホロウというロックバンドが17年あまりの歴史に幕を下ろした。
17年を真空ホロウとして生きてきたギター・ボーカルの松本明人は、その翌日には個人SNSアカウントのログをほとんど削除し、アイコンの写真をブラックアウトさせた。そして完全に沈黙した。
 彼が投稿を再開するまでの間、私は普通に具合を悪くしていた。もちろん、氏が音楽活動を続けることは理解っていたし、己にそんなかわいげが残っていたのかと今となっては思うのだが、10年以上追っていた推しの消息が知れないことは、それくらい堪えていたらしかった。
 2週間の沈黙を経て、3月1日、彼は突然帰ってきた。新曲をぞろぞろ引っさげて。

youtu.be

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 相変わらずの歌声だった。「この声しかないなぁ」と思った。具合は立ちどころに良くなった。
 
 
 それから8カ月。完全なるソロ・アーティストとしての初のツアーが告知され、ツアーにともなっての新アルバムのリリースが発表された。
「REBIRTH」。配信リリース日は10月18日。氏の誕生日のその日である。


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 Rebirth。再生。「生まれ変わる」――「もう一度生まれる」という意味だ。奇しくも一昨年、転職(部署移動?)した別ジャンルの推しが転職後の初仕事で自死を選ぶ役柄を演じたため、そのようなテーマで記事を書いた
 そして今年、氏はバンドからソロへと転身した。ついでに私も転職した(この件については後日また)なるほど、環境を大きく変えることは「生まれ変わり」に等しい。ある一面においてはそうなのだろう。しかし――それだけでは終わらない感慨がこの曲にはある。「再生」は「生まれ変わる」だけでなく「音楽をPLAYする」という意味もあわせ持つ。得意のダブルミーニング。愛してやまない「結局」のところ。綺麗に整列され、線対称に配置された楽曲タイトル。各々が好き好きにプレイリストを組み換え、単曲で聴くことに特化されたシステムの中でほとんど無意味になったこだわり(某アーティストへのリスペクト含)は、「CD世代なんですもの」と語る姿を思い出す。ええ、ええ、わかります。私もですよ。
 
 今日の朝、私は通勤の道程で「再生」ボタンを押した。空は見事な秋晴れで、涼しくて、過ごしやすい気候だった。氏が生まれたのもこんな日だったのだろうか、と思った。よく晴れていて、うららかな春の陽気でも冴えすぎる冬の朝でもない、ちょうどいい季節。そこにぴったりとフィットする音楽が流れていた。
 
 再生日(バースデイ)おめでとうございます。あなたに再び会えたことを、本当にほんとうに、嬉しく思います。