王と道化とその周辺

ちっぽけ嘘世界へウインクしておくれよBaby

2023年買って良かった音源

 どうも、またまた明けてました。
 全国的にも大変な情勢であるところ(お見舞い申し上げます)、個人的にも年末からこっち色々なことがありすぎて正月感のまったくない新年を迎えることとなり、そのおかげと言っていいのか年始からけっこう時間が出来たので例年よりやや早めにこの記事が仕上がりました。
 恒例の「今年買ってよかった音源」について語る記事。あくまでその年「買った」ものなので最新リリースではないこともあるが今回は比較的新譜が多い年になったかも。また、昨年からのサブスク導入や推しの動きの活発化により大豊作……というか選出がめちゃくちゃ増えてしまった。どれも落とせなかったんだよ~!
 そんな感じで2023年の推し音源、どうぞ。  
 

『すずか』 市松寿ゞ謡

 2023年の新規アーティストでは仏血義理で聴きました、市松寿ゞ謡、ホラー系Vtuberさんです。
 2020年リリースのインディーホラーゲーム『Go Home』が実況界隈でカルト的ヒットを飛ばし、2022年には新作『夜詛YASO curse of soirée』をリリース。今回の音源はこれらのゲームの挿入歌ほかボーカル曲をまとめたアルバムです。
 彼女の存在自体は超人気声優花江夏樹を筆頭に色々なゲーム実況者の『Go Home』実況動画で知ってはいたものの、「これは」と思ったのは『夜殂』のエンディング曲のひとつ『呪い』を聴いたときでした。

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『すずか』に入っているこのフルver.も、夜詛サントラのピアノソロver.もすごく良い。メロディセンスは無論のこと、独特の緩急ある譜割りに乗せられた歌詞に、ゲームの世界観・キャラクターの心情そのままのエモが込もった歌唱。これは令和の戸川純!! と大興奮(したものの動画コメントで誰も戸川純の名前を挙げていなくてマジかよと思った)
 
 年末に彗星のごとく飛来した爆裂キラーヒットコンテンツ「ゲ謎」もあいまって、2023年はホラーへの感度が高まった年だった。
 
 

『Ceramics Runway』 Dept

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 馴染みのアジアン料理屋の店主さんが最近タイのBLドラマにドハマりしていて、タイのPOPSを店内BGMで流していたのですよ。
 めちゃくちゃ良くないですか? 何て言ってんのかも全然わかんないけど、この底抜けな軽妙さ、綿菓子みたいな浮遊感のあるボーカル、これはまるで……かつての渋谷系では?!
 ポップンミュージックにハマりたての頃、渋谷系アーティストとそのフォロワーを一通りさらってその都会的なオシャンさにオシャーとのされていた人間なのですが(スギレオリエさな~と言えばわかる人はわかる)、それがそのまんまタイのアーティストで再現されていることに驚きました。歌詞読めねえどころかタイトルの読み方もわからん、でも曲が良いことはわかる。ワタクシにとって未知の言語であるタイ語で歌われていることによって浮遊感もマシマシです。
 このDeptからタイのPOPSについて調べたところ、タイのインディーミュージックシーンでは渋谷系・シティポップがマジに流行っているらしく、Deptの所属レーベルからはフリッパーズギターのアルバムを丸ごとカバーしたコンピレーションアルバム『flipper's player~タイへ行くつもりじゃなかった~』もリリースされている。(タイトルのセンス~!)
 BLドラマはすっかり一ジャンルとして定着したタイカルチャーですが、タイの音楽シーンもなかなか興味深いです。
 
 

『PiLOT』 DOMi & JD BECK

 2023年のグラミー賞。その授賞式中継番組のリポーターとしてTravis Japanが抜擢された。彼らが司会するノミネート者紹介の事前番組を見ていて、アンテナに引っ掛かったのがこのアーティスト。

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 ドミ&JDベックは最優秀新人賞にノミネートされていた。一聴して「は?」みたいな音楽。ジャンルとしてはミニマルジャズというかフュージョンというかインプロ(即興演奏)というか、それら全部を含んだまったく新しい音楽というか。なんか急に「は?」みたいな音楽を聴きたくなることってあるじゃないですか。その欲求にバチっとハマったんですね~。
 開会前のレッドカーペット、パフォーマンスステージから受賞スピーチまでをグラミーの会場で直接観賞することは、デビュー直後の彼らにとって、多くのものを得られる良い機会となったことだろう。
 それはいちオタクであるワタクシも同じく、ふだん洋楽方面までなかなかアンテナが張れていないので、推しの活動によって見聞を広げられる機会が今後もあるとありがたい。

 

『One Two』近藤花

 音ゲーにハマっていた頃、「このBEMANI曲が好きならこのアーティストが好きかも」を紹介するスレでDormir好き向けとして紹介されていて知ったユニット「Arthur」
 このユニットは2枚の超超超名作アルバムを残して解散したのですが、ボーカルの近藤花さんはソロ名義で活動されていました。「あの解散したバンドのメンバー今なにやってんやろ? 調べてみよ」って急に思い立つときってあるじゃないですか。そのタイミングが今年だったので、今年紹介できました。

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 どんぐり10個が入場料の森の音楽会で聴けそうな歌声。しみじみと癒されます。
 
 

『ゆのもきゅ』yunomi

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 2021年の「今年の音楽」記事でも取り上げたCY8ERのメインコンポーザーを勤めていたのがこのyunomi氏。「あの作曲家ほかにどんな仕事してんやろ? 調べてみよ」って急に思い立つときってあるじゃないですが。そのタイミングが今年だったので今年紹介できました。(調べたところ「SOUND VOLTEX」に収録されているそうだ。BEMANIスタッフのセンスは流石である)
 いわゆるひとつのアキバ系テクノポップ。とびきりキュートでキャッチーなサウンドの中毒性はCY8ERのそれと変わらず良い。『インドア系ならトラックメイカー』が特に気に入っているが、アルバム『ゆのもきゅ』にはCY8ERを聞いていたらおっと思うようなフレーズの隠れた楽曲もあったり、世界観のリンクがあるようにも思えてオタク心をくすぐられる。
 
 

『GARAKUTA』 ぼっちぼろまる

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 ってCMで聴いてるうちに耳から離れなくなってアーティスト名調べてまんまとドハマりしちまったよ! 『ぼっちのうたⅠ』もかなり聴いたけど『ひとりぽつり』があまりに名曲すぎてこっちに軍配が上がりました。トラジャがこの曲で踊ってるとこ見てえー!

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 CMのギターサウンドを聞いたときはこれが令和のテケテケロックか! と思ったが歌詞中のカルチャーはめっちゃ平成ですね(それはそう)
 にしても、覆面歌手増えたなぁ。
 
 

『2009-2023 AllOfPeakedyellow's CreativeActivities/AsWellAsLife/ItsEnd/AndRebirth.』 preakedyellow 

 ワタクシがpeakedyellowと出会ったのは2009年、ニコニコ動画はボカロブームの真っ最中、一昨年も紹介した「アンダーグラウンドカタログ」で紹介されたときでした。

 
 衝撃だった。
 初音ミクに自バンドの曲をカバーさせるアーティストはいた。初音ミクのために作った曲をセルフカバーするアーティストもいた。初音ミクと一緒に歌う」アーティストは当時(おそらく今も)珍しかった。
「ミクと俺」の俺氏のブルースロックな歌声に、ダンスとロックの音楽性に、猥雑、退廃、泥と汗となんか色々な汁にまみれた中の一匙の純粋さを描く世界観に魅せられて、気づけば十数年――ぶっちゃけ最推しバンドよりも長く聴いている。

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 そんな彼がついに今年、ベスト盤をサブスク配信リリースしたのだ。ずっとニコニコやSoundCloudで無料配信されていて課金の機会がなかったので、これを機に推しアーティストへできる限り還元したいところである。
 
 

『ニューヨエコ』 ヨエコ

 2023年、ヨエコが、俺たちの倉橋ヨエコが帰ってきた。

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 マジの朗報であった。2008年の「廃業」から15年の時を経て帰ってきたのだ。
 最推しバンド真空ホロウのサ終に際し、6月にあげた記事内でも話題にしたばかりだったのでタイムリーさに震えたものである。
 復帰の報せののち、当人のインタビューで語られたこの15年間の出来事は並大抵のものではなかったし、それは今もなお続いている。
 それでも、それでも彼女は再び歌うことを選び、これからも歌いたいと願っているし、ファンはアーティストの健康を気遣いつつ、これからもその音楽を聴きたいと願っている。これほど幸福なことはないだろう。
 少し昔話をしよう。
 私がヨエコ――倉橋ヨエコと出会ったのは2007年だったか、インターネッツカルチャーの中心がニコニコ動画だった頃、動画クリエイター・エジエレキ氏によるアニメ『夜な夜な夜な』(を当時の自ジャンルで手書きパロした動画)であった。あの頃、手書きMAD動画やボカロカバーの引用元となりネットオタク界隈で名を知られるところとなった楽曲・アーティストは多い。著作権的にはほぼアウトであるものの、そういったアングラカルチャーから様々なクリエイターが生まれたことは間違いないだろう。そんなニコ動の文化でもある、動画につけられる検索タグ。その中にヨエコ関連の動画でもよく見られた「ポガティブ」というタグがある。「ネガティブなのかポジティブなのかわからない動画によくつけられるタグ」とニコニコ百科事典ででは解説されているが、私はこれを「ネガが行き着くところまでいったとき、一転してポジに向かう力学」のことを表していると考えている。私が好むのはこの「ポガティブの精神」をもつアーティストで、真空・松本氏の楽曲にも同じものを感じていたからこそ、6月の記事でもヨエコの名を出したのかもしれない。
 さて、せっかくなので楽曲についても触れたい。完全新曲『ドーパミン』を除いて、収録されているのは廃業前の楽曲のセルフカバーだ。先述した『夜な夜な夜な』と同じく『卵とじ』もまたニコ動の手書きMADカルチャー界で有名な楽曲で、ファンがどこから広がっていったのかを熟知していることがうかがえる。『夜な夜な~』『昼の月』のアレンジは原曲よりもジャズやタンゴの色が濃く、『友達の唄』『卵とじ』は華やかに、ラストを締め括る名曲『楯』 もより壮大になっている。再起を言祝ぐかのように。そして新曲『ドーパミン』――「この傷たちと生きていく」まさにポガティブの体現である。
 去る神あれば還る神あり、という年になった。いつの日かまた、ライヴの現場でヨエコの歌が聴けることを願ってやまない。
 
 

『◎MNIBUS(+未来完全版)』 健康

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 検索しづらいアーティスト名ランキング第1位の座をほしいままにするバンド「健康」(大嘘)
 の、最新リリースは2022年中から披露されていた映画『アカルイミライ』モチーフの5曲に新曲を加えたミニアルバムである。
 2022年発売のアルバム『未来』の世界観を引き継ぐ「未来 完全版」パートの新曲は、映画のディレクターズカット版のごとく、本編からは尺の都合でカットされたシーン群といった様子。具体的には、淡々としすぎてやや冗長な日常パートや、年齢指定の範囲に収めるために本編では控えめに抑えたバイオレンスシーンなどをイメージさせる楽曲群だ。個人的に好みなのは『繋縛』。『偽物』のライヴパフォーマンスもよかった。
『未来』リリース後、次回のリリースは現場で披露されていた「完全版」曲のみになるかと思っていた。が、予想に反し『◎MNIBUS』と題した枠で新たに3曲が追加されていた。こちらも元ネタとして映画を引用した――ようは二次創作であるが、3曲はそれぞれ別の映画を引用している。『告白』『怒り』そして『怪物』。奇しくも3本すべてが、複数の人物に視点を移り変わりながらストーリーが展開していくオムニバス形式の作品だったことをして、このタイトルになったという。元ネタ作品自体の不穏さを惜しみなく再現した、心ざわつくサウンドがたまらない。
 今作の白眉はやはり『怪物』を元ネタにした『Monster』だろう。この音源の元ネタが明かされた後に、たまたま某百貨店のミニシアターで上映されることを知って観に行き、理解した。映画ラストシーンのあの、あの空気感が、『Monster』には見事に閉じ込められていたのだ。松本氏はこの作品の制作にあたって、思い入れの強さがゆえに一度は挫折しかけ、それでもなんとか完成にこぎ着けたのだという。それくらい心を込めて作られた楽曲であると、原作を観て頭でなく心で理解できた。やっぱエアプよりちゃんと原作履修したほうが良いよね!(そういう話?)
 
 まだまだ走り出したばかりの健康プロジェクト。一本の映画をフルアルバムにする「大テーマ作」と、一本を一曲にまとめたシングルの「オムニバス作」を交互にリリースしていくサイクルはいいかもしれない。
 
 

『Roed to A』 Travis Japan

 昨年、シングル『Just Dance』で配信デビューを果たしたトラジャ。レーベルがHollywoodに本社を置くCapitol Recordというイレギュラーもあり、その後のリリースがどうなっていくのかが目下の気がかりではあったが、2023年明けからツアーでは新規に3曲、5月~6月にはシングルにEPと順調に配信音源を発表し、ツアー円盤も発売、12月にはついに全国流通の物理盤として1stアルバムをリリースした。

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 この1年はまぁ~色々な色々があったわけですが、それについては別記事であらかたブチ切れ……ブチまけておく予定なのでそっちで読んでいただくとして。トラジャ単体としては粒ぞろいの作品に恵まれ、レーベルや配給(ユニバ)の進めるプロジェクトが手堅くあること、トラジャが貪欲によりよいパフォーマンスを求めて修練を積んでいることがわかった。ド派手なデビュー曲から一転して2ndはクール&シックにまとめた『Moving Pieces』(MVはジャミロクワイリスペクト?)、ノリノリファンキーな『Candy Kiss』、チップチューン+EDMの『LEVEL UP』など、シングルは流行のレトロ路線を踏みつつ、トラジャの本分としてのショーテイストジャズ『Swing My Way』から、バキゴリな“今風”HIPHOP系EDM『99PERCENT』、さわやかなミドルテンポのPOPS『Okie Dokie!』『Keep On Smiling』などもあり、ジャンルは幅広い。アルバム新規曲で個人的におススメなのは『Till The Dawn』だ。AOR歌謡つーのか、邦楽がいちばん芳醇な香りをただよわせていた時代の歌謡曲のスメルがぷんぷんする。「うたコン」みたいな番組でベテラン司会者にイントロ尺ぴったりのコメントで紹介されながら生オケで聴きてえ~! (と思ったけどイントロそんなに長さなかったわな)
 今回のアルバムは4形態に分かれ、FC盤にはメンバーを3組に分けたユニット曲がつき、一般流通版には通常盤に加えてJr.期の楽曲がボーナストラックとして付属する特殊形態もある。ユニット曲と過去曲音源化はオタクが長年待ち続けていたそれで、「わかっている」なと思うし、このところの情勢で先行き不透明な中、今やれること一通りやり切ってしまおうという強い意志が感ぜられた。この申し分ないボリュームなら、向こう3年アルバムが出なくても一向構わないと思えた。事をすべて落ち着けて、彼らが恙なく活動できるよう願ってやまない。
 
 

『REBIRTH』 松本明人

 2023年2月18日をもって17年あまりの活動に幕を降ろした真空ホロウ。
 その活動を10年あまり追いかけて終幕を見届けたのち、ギターボーカル松本明人氏がKANZENソロ名義活動を再開するまでの2週間についてはこちらのクソエモ1000%記事にもまとめた通り、私はツンプルに落ち込んでいた。この10年を共に生き抜いた(と、言ってもいいだろう)アーティストが行方不明状態であることが、これほどメンタルに響くとは。まぁ、蓋を開ければ3月頭に彼は帰還したため、空白はたったの2週間ほどだったのだが。あれは人生でもっとも長い2週間だった。

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『REBIRTH』と題された新作はラストライブから約半年後の10月18日は松本氏の誕生日にリリースされた。「生まれてしまった」というサビのフレーズが強烈な『再生のパレード』から、「止めることすら止めた」『REPRISE』まで、一気になだれ込んでくるエモの嵐は私の10年の積み重ねゆえで、全曲通してそこかしこに、これまでの様の断片が散らばっていることが「わかってしまった」。
 細かい部分を挙げていくとキリがないので大きな要素から見ていこう。まず、収録された19の楽曲タイトルが真ん中の反復記号(楽譜で使用する音楽記号)を基点に線対称で構成されている。これは様のリスペクトするアーティスト・椎名林檎へのオマージュで、インディーズ期のミニアルバム『Contradiction~』も同じ手法を使っている。また、楽曲のもつテンションも同様に、序曲『REBIRTH』から『反復記号』へと波を作り、そこから終曲『REPRISE』に向かって収束していくような対象の構造がある。捉え方には個々人によるのだろうが、これによって「陰陽陰」あるいは「躁鬱躁」のサイクルが見えてくるのだ。さらにCD盤では、曲間のブランクが限りなくゼロになるよう調整されている。これらの細工は誰もがサブスクサービスで、単曲や他人のプレイリストを拝借して音楽をもち運ぶ時代には意味を成さない(気づかれもしない)、無駄なこだわりなのかもしれない。それでも2021年の配信リリースラッシュ後に「やっぱりCDも欲しいから」と会場限定盤もリリースしたほどの様だから、物理盤ならではの要素を封じ込めたのだ。
『REBIRTH』――再生というタイトルもそう。バンド活動を終了し、ソロアーティストとして「生まれ変わった」こと、音楽をプレイヤーで「再生」することのダブルミーニングだろう。加えて、「リバース」という音には「REVERSE」――「逆再生」の意味もある。「再生」と「逆再生」が似た音で表されること(「音楽をplayすること」に「再生」を訳語として宛てたこと)の不思議に松本氏が気づかないわけもなく、11月からのアルバム引っ提げツアーでは19曲目『REPRISE』から始まってアルバムの曲順を遡り、ラストにもう一度『REPRISE』のワンフレーズを歌って終わる、という構成・演出だった。つまり、どちらから見ても成立するトランプの絵札のような構造をもったアルバムなのである。
 無論、真空時代にあまり触れていない新規層にだって楽しめるクオリティは保証されている。とあれば、過去の断片はただのファンサービスではなく、今、なうの様の自己紹介としても機能することになる。王道UKオルタナロックもあれば後期真空にも見られたエレクトロポップス、純然たる様の趣味に近い実験的ノイズミュージックも、木漏れ日のようなタッチのミディアムバラードもあり、ジャンルは多彩。私は後期真空の発展系のような『月まで一五〇日』、個人的に「様2.0」と勝手に思っている『延長戦(組曲)』が好きですが、心臓を鷲掴みにされたような感覚で情緒が千々に乱れるのはやはり『再生~』『復讐~』のシンメですね(アイドルみたいに言う)さきに紹介したヨエコの新曲「この傷たちと生きていく」とも重なる「傷を歌にしちゃえばいっか」の『復讐~』(結局!)、ライヴでの『再生~』はまさに産声というような絶唱で肌にビリビリきた。ああ、ここへ還ってきたんだ、と思った。
 
 11月の公演後、物販横で我々の見送りに出ていらした様と、少しだけお話をする時間を賜った。そのとき会話のなかで様は「(音楽を)やらずにはいられないんですね」と笑ってお話しされ、私はそれが心底嬉しかった。どんな環境にあっても、どんなかたちであっても、言いたいことが沢山あって、表現することをやめられない、根っからの表現者私はどの分野でもそんな表現者たちが好きなのだった。
 なにはともあれ、また逢えて嬉しいです。来年もきっとこの場所で語らせてくださいね。