王と道化とその周辺

ちっぽけ嘘世界へウインクしておくれよBaby

音楽を聴くこと、ダンスを観ること、クイズを愉しむこと

 音楽を趣味の一つとしている。
 そのためにCDを買ったり、好きなバンドのライブに足を運んだり、年一回「今年買ってよかった音源」まとめ記事を書いたりする。
 舞台音楽も好きだ。子どものころから親の趣味で劇団四季などのミュージカルに親しんできたし、今でも自分でチケットを手配して観劇に行く。色々と習い事もさせてくれる親だったので、ピアノ、バレエ、バイオリンなど触ってみたりもした。しかし、稽古嫌いのものぐさ太郎にとって一番効果があったのはゲームセンターにあるゲームの音楽だった。
 中学のときに音楽シミュレーションゲーム、いわゆる「音ゲー」にハマった。「BEMANI」はKONAMI社製音ゲーの総称で、多い時には5機種ほど並行してプレーしていたが、メインは「pop'n music」「Guiter Freaks」「jubeat」だ。ギタフリでは、ロックサウンドリードギターのほか、ベースパートも演奏することができ、サウンドコンポーザーにはベースをメインで演奏するベーシストの方がいた。作詞・作曲・アレンジャー・レコーディングエンジニア、色々な役割をもったスタッフが楽曲に係っていて、お互いの楽曲で得意の楽器パートを演奏しあったり、歌詞を書いたり、にぎやかしのコーラスに総出で参加したり、時には東京から神戸への出張時に自宅へ留めてもらったエピソードなどがWEBサイトの楽曲紹介ページで語られていた。「変曲リレー」という名物企画では、「編曲」次第で同じメロディーの楽曲がいかようにでも印象を変えることを、個性豊かなコンポーザーたちが面白おかしく教えてくれた。
 音ゲーのおかげで私は、音楽に多種多様なジャンルがあることを覚え、ボーカルのないインスト楽曲に親しむことを覚えたし、メロディーを奏でるボーカルやリードギター以外の、ベース・ドラムス・ホーンセクション・ストリングスなどのパートを聴き込む癖がつき、サントラのライナーノーツで曲ごとの作詞・作曲・編曲・演奏のクレジットを確認するようになったのである。
 
 時は流れ、ジャニーズ事務所所属のグループにハマった。(かつてKONAMI音ゲー開発チームで働いていたコンポーザーが、時折推しグループ楽曲の「編曲」を担当していたり、奇妙な繋がりがある)
 事務所所属タレントの中には、自ら楽曲を制作したり、コンサートの衣装をデザインしたり、ステージ演出、振り付けなどを手掛ける者も多い。とくにTravis Japanというグループは、そもそも「あのマイケル・ジャクソンの振付師」であるところのトラビス・ペイン氏がメンバーを選出したグループであるがゆえ、ダンスへのこだわりが強く、6時間で1つの作品の振り付け演出をゼロから作る企画(BSフジにて過去4回放送された『Travis Japan ×~』のシリーズ)もある。主に振り付け構成を考案するメンバーは吉澤・宮近・七五三掛の3人だが、6時間振り付け企画を通して他のメンバーも参加するようになり、2022年のL.A留学後、世界的ダンスコンクール「WORLD OF DANCE」に参加して上位入賞を果たした振り付けは、メンバー全員が参加して作り上げたもの(総監督は宮近さん)だという。

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 また、2021年に始まったYoutubeの「+81 Dance Studio」では、気鋭の若手振付師たちとコラボレーションしたパフォーマンスを配信している。そこでは自分たちだけのパフォーマンス動画のみならず、振付師の方も動画内で共演する「feat.Choreographer」バージョンの動画も配信されている。ダンスがただ「パフォーマーの作品」としてあるのではなく、ダンスを「振り付け」した者がいる、ということを明示していくのは、ダンス業界・振付という仕事の周知および地位向上が意識されているだろう。
 思い出すのは2022年1月に放送された特番『中居正広のダンスな会』で、TRFのダンサー・SAM氏が「グループの一員なのに、自分たちダンサーはスポット(ライト)を当ててもらえなかった」と語っていたことだ。ボーカル混合ユニットではダンサーはモブ扱い、ならば尚のこと「ダンスの振付師」なんて顧みられやしない。
 現在、ジャニーズはもちろんLDHK-POPアーティストが様々な場で活躍し、「ダンス」自体の文化的地位は向上しているように思う。では「振り付け」はどうか? 音楽番組などでアーティストがパフォーマンスを始めるとき、楽曲のクレジット(作詞・作曲)は見ても、ダンスの振付師の名前はほとんど見ない。あってもその人自身がよほど有名なダンサーでなければ、「振り付け:誰々」のテロップは目に入らないのではないだろうか。コンサートDVDやパンフレットをみても、どの曲が誰の振り付けなのかという記載はない。調べても出てこない。
 先日、北米で放送された「America's Got Talent」にトラジャが出演した際、審査員の一人が「この曲の作者は?」と質問した。そこでメンバーは咄嗟に「わかりません」と答えて笑いをとったわけだが、やはりこの場でも「振付師は誰?」と聞かれることはなかった。

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 オタクたちの大半も「夢のHollywood」の作曲者名をすぐには答えられなかっただろう。そしてオリジナルの振付師も知らない。あの日のパフォーマンスの構成を考えたのはメンバーの宮近さんで、間奏パートに「LockLock」という別の曲の振りを引用したことは知っている。そして「LockLock」の振り付けを手掛けたのがKis-My-Ft2の千賀健斗さんだということも知っている。なぜなら、彼がジャニーズのアイドルでトラジャの先輩だからである。
 
 
 突然だが、2020年の自粛期間中、私はQuizKnockのYoutube動画にハマった。QuizKnock自体は、我が推しである川島如恵留さまがクイズ番組等でメンバーの皆さんと共演する機会が度々あり、如恵留さまも自身のブログ等でQuizKnockのファンであることを公言していたため、2019年内には知っていたが、動画を見始めたのは20年に入ってからだった。
 あの頃のあの状況下、さすがの私もやや参っていたところへ、ちょうどよくQuizKnockは刺さった。ほどほどに難しく頭を使うクイズに脳の容量が割かれ、余計なことを考える隙を上手いこと埋めてくれたのだ。
 もともとクイズ番組は好きだった。開成高校高校生クイズで2連覇した年もしっかり見ていたことに、SNSの投稿ログを振り返って気づいた。伊沢社長のことは記憶になかったが、人気企画「朝それ」で田村さんを見たときすべてを思い出したのだ。パズルのピースがかちっとハマったような衝撃であった。
 QuizKnockを追いかけ始めて、競技クイズ自体の面白さはもちろん、「企画クイズの作問をする側」に目が行くようになった。主に企画チームとして問題を作り、出題する側のふくらP・河村Pも、ときに画面内で回答者として得点を競い、プレーヤーとして立ち回る伊沢社長ほかメンバーも、ときに画面外から出題する側になる。企画に盛り込まれたギミックや得点状況でプレースタイルが変わったりする「プレーヤーとしての楽しみ」のほかに、「問題を読みあげる技術」も交えた勝負をしたり、「出題の意図」が解説されたり、「作問の過程」をも企画として見せてくれたりする。2021年には「観客の作ったクイズをその場で添削する」イベントまで開催している。「作る側」「解く側」の比重がほぼ同じくらいの割合で存在し、双方がクイズという文化に欠かせないものとして示されているのだ。
 2022年春、QuizKnockが主催した初のクイズ大会「High School Quiz Battle WHAT」の公式WEBサイトに掲載された大会長・河村氏の声明文を読んだ。「世界はクイズを知る。」の段で語られていたことは、この頃ずっと考えていた物事に繋がっているような気がした。
 
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クイズは世界の中で、まだ文化ではない。文化になれていない。クイズよりも優先してやるべきことがあると思われている。この大会の目的は、世界、つまり社会に、クイズという文化の存在を認めさせることだ。
「WHAT」公式WEBサイト・声明文より引用)

 「クイズ」の文化的地位向上。それは同時に「クイズ作家」の地位向上であり、その仕事に「敬意を払う」ことはすなわち「見合った対価を払う」ことだ。QuizKnockの立ち上げには、そのことへの問題意識があった。
 そして彼らの企みは成功していた。クイズの楽しみとともに、作問そのものを読み解く楽しみを見出した私の存在がその何よりの証左だ。QuizKnockに出会うことでクイズ番組や大会の「問題」は「クイズのなる木」からもいでくるのではなく、熟練のクリエイターが創意工夫を重ねて生み出した「作品」だと私は理解したのだ。
 
 それは振付師の仕事に似ていた。画面内にいるのはパフォーマンスしているダンサーだけだから、そのダンスは「振り付けのなる木」からもいできたもののように扱われているのだ。熟練のコレオグラファーが考え抜いて生み出した作品であるにもかかわらず、である。
 私は思う。ダンス・振り付けという仕事が顧みられない世界で、推しグループの「メンバー全員が振り付け演出できる」ことは意味を成さないのではないか。音楽番組で、YouTubeの公式MVのキャプションで、楽曲のクレジットとあわせて振付師の名前が載らない世界では、推しの作った振り付けも「作品」としての価値を認められないのではないか。推しがこれまで磨いてきた技術・発想力・構成力が、ただその辺にあるものを拾ってきたみたいに、無為に――無償で使われるだけになってしまわないか。
 
「+81 Dance Studio」に話を戻そう。トラジャは「振付師」がメンバーを選び、メンバー自らも振り付けができる。メンバーが振り付けしたならば、誰が手掛けたものなのか必ず教えてくれる。童謡に振り付けする企画では、考案した閑也さんにきちんと感謝を伝えていたし、2020年の配信ソロコンサートで如恵留さまは、ある1曲に振り付けした閑也さんの名をテロップで画面に表示させた。「LockLock」「Talk it! Make it!」の振り付けをした先輩の千賀さんにも、「+81」で「Shake」のコレオを手掛けたKing & Prince 高橋海人さんにもリスペクトを惜しまない。彼ら自身がそういった気質を持ち、彼らを好いているファンダムもまた、推し自身が「振付師」であるからこそ「振り付け」に興味を持っていることが多い。そういった土壌であったから、「+81」はトラジャを要求し、トラジャもまた「+81」を希求したのではないかと。
(また、この企画の動画では他にも、スタジオに投影される映像技術や色彩設計の担当者の名前もクレジットされている。動画という作品をともに作るプロフェッショナルへのリスペクトを感じられて、この企画全体がいい仕事をしていると思える所以である。)
 ダンスという文化、振り付けというプロの仕事へのリスペクトを持つこと。ダンスパフォーマンスの業界全体を盛り上げていく試み。それが「+81」で、短期的なダンススキルの向上と同時に、もっと長期的で広範な成果が――まだ‟祈り”のようなものだが――期待されているのでは、と私は思う。
 だからこそ、留学のために「+81」のスタジオをずっと空けたままでいるのは得策ではなく、後輩Jr.に仕事を一部引き継いでもらうべきだと私は考えている。トラジャの都合だけでプロジェクトを停滞させていては、業界の活性化には繋がらず、事務所が――トラジャが一方的に振付師を「使って」いるだけになってしまうからだ。
 

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 先日、トラジャが自身のInstagramライブ配信を行った。その際、新たに始まった「+81」の2nd seasonの楽しみ方として、「ダンスを観て振り付けを担当した振付師を予想する」を提案していた。そして、一見してはわからなかったが、答えを見てみれば、以前その振付師の先生方(今回はSIS)とのレッスンで見た資料映像を思い起こさせるものだった、という話でおおいに盛り上がっていた。
 その配信を見ていたのであろう、振付師の予想として名を挙げられた「GANMI」のメンバーは以下のようにTwitterにPOSTしている。

 そういうことである。
 同じく、クイズに答えつつ「作問者」を当てるQuizknockの企画を紹介して、この緊急特別記事を締めくくりたいと思う。

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(ぼく、たぶんイツバとデカメロンの周平先生なら当てられる気がするなぁ~~~)