王と道化とその周辺

ちっぽけ嘘世界へウインクしておくれよBaby

推しが留学しました Part.2(あるいは、私たちはそれを語りえるのか)

パート2なんてもんがあるのかよ2022

 去る2022年3月3日、Travis Japanが自身のInstagramライブ配信にて北米はロサンゼルスへ留学することを発表した。コンサートツアーや大きな仕事の報せのない期間が長く、何かしらの仕事の発表があるものと思われていた頃合いだったため、留学と、それに伴う国内での無期限活動休止という報せの衝撃はかなりのものであった。
 個人的な感想を述べよう。

 やったぜ。(1年ぶり2度目)

 以前の記事やその後節目ふしめの記事で触れたように、私は本邦におけるエンタメの現場や仕事、アイドルをとりまく環境について好印象を持っていない。魔の2020年、2021年は乗り越えたものの、依然としてきな臭さは残ったまま。こんな世ではよしんばデビューしたとて「Not for me」な仕事しか来ないだろう。
 この3年間、YouTube企画の様子やパフォーマンスを観て、感じてきたトラジャの得意とする「空気」。彼らのそれはこれまで正道とされてきたバラエティー番組のものとは違う、と私は思う。これは先日12日Johnny's Net Onlineで生配信された『Johnny's village』の評判でも現れていた。ゲストとして登壇した宮近・松田・松倉は、企画主催者である先輩・関ジャニ∞の村上さんがそれとなく示した「こういうフリにはこう応える」という「お約束」には対応できず、「海外での仕事」「仲間と共同生活」の経験者である先輩による貴重な話の傾聴につとめ、最終的にはコラボセッションコーナーが予定時間内に披露できず終わってしまった(セッションコーナーは後日配信の特典映像として収録された)
「予定通りに進行し時間きっちりに終わる」はむろん大事ではある、が、「こういうフリにはこう応える」という「お約束」を乗りこなすことが必ずしも正解というわけではないだろう。ノーツが判定ラインと重なったときにタップしてgreatを狙う音ゲーでスコアを競っているでもない。それならば誰をゲストに呼んでも同じだ。
 私見では、そういった「音ゲー的バラエティーノリ」を求めていない人が、星の数ほどあるエンタメの、ジャニーズ内だけ見ても選び放題の中からトラジャを好んでいるのではないかと思っている。『Johnny's village』への反応でも、その点を新鮮に、面白く感じたという声はあった。定型どおりの対応であったなら出てこなかったはずの声だ。それまでのゲストにない展開であったからこそ、ひっかかる人もいる。
 

ここらで少し落ち着いて、3年前留学したもう一人の推しの話をしよう。

 もうひとりの推し、岡本圭人さんとわたしについてのここまでのあらすじはココココにある(まぁまぁ長いので読まなくてもいいです。)
 彼は個人的な動機による、ほぼ完全に活休しての留学で、トラジャは事務所が金を出したプロジェクト(つまり、「仕事」の一環)としてのグループ単位での留学なので、状況はまったく違う。(「左遷?」なんて声も聞かれたがこんな金のかかる左遷があってたまるかよと思う。てきとーにグッズ出してライブやらせときゃ稼げるコンテンツをわざわざ金払って捨てるわきゃねーだろエアコンや冷蔵庫じゃあるまいし)(様子のおかしな爺さんのワンマン運営ならカネドブもあったかもしらんが、いちおうあそこは日本で経営されてる一般企業なので、年度ごとに企画立てて稟議を通して予算つけて〜とかやってるはずですよね。大人ならわかるオハナシ)
 あの留学もわたしにとってよい結果をもたらした。推しは予定は少々延びたものの無事卒業・帰国し、わたしが希望したとおりにそれまで所属していたグループは脱退するに至った。それから、海外原作の一筋縄ではいかない舞台の主演が発表され、無事に全公演を終えて、いま、新たに外部舞台の主演を務めるべく稽古に励んでいる。
 日々更新されるブログをみていると、彼はひとつの台本をじっくりと読み込み、様々な資料に当たりながら役作りを深めていくのが性に合っているのだろうと感じられる。このような取り組み方は、日々せわしなく様々な役割をこなすことを求められるTVスター的タレントになるには不向きだろう。2年あまりの休業と留学で、グループから、日本の仕事環境から離れて、彼は自身だけのやり方を見つけたのだ。どちらがより上等とかいう話ではなく、特性が違うなら、おのずとやりたい仕事・やれる仕事も変わってくるし、どちら側もそれぞれ違う場面でちゃんと求められている、という当たり前体操より当たり前の話である。
 みんながみんなTVスターを目指しているわけではない。みんなが同じ音ゲーをプレーしているわけではない。

トラジャは既定の、シングルデビュー路線に沿えるのだろうか、と考える。

 考えれば考えるほど、「なんか違うんじゃないか」と思えてくる。
 ていうか、初週売り上げ何枚でオリコン何位とかビルボード何位とか、よそさまのグループとvsだとか、3形態5形態同じ音源をそれぞれ3桁枚購入とか、やりたいんすか? みなさんお好きで、趣味でやってたんですか? ぼかぁ嫌ですね!
 わたしもみんなも大好きな『夢のHollywood』通称「夢ハリ」、そのフルサイズのイントロは無論ご存じだろうが、あれ、歌いだしまで35秒もあるんですよ。
 オーケストラ伴奏のミュージカルのOvertureみたいで最ッ高にわくわくするし、カッコイイし、いつか絶対生オケで聴きたいし、とにかく大好きなんですけど、たぶん、歌番組でイントロに35秒も使ってたら「歌まだ?」って言われると思うよ。
 この曲はファーストオリジナル曲で、未だ彼らの代表曲で、本当にHollywoodに行ってしまうレベルで心の指標になっている。でもこれまで通りのデビューをするなら、夢ハリのイントロはおそらくカットされる。売れ筋の、現代のポップスに合わせるために(3月26日放送の『CDTVライブ! ライブ!』でもフル尺披露といいつつイントロはやはりショートサイズであった。)みんなが同じ音ゲーをプレーしているわけではない。でも、やっぱりプレイヤーの多い人気の音ゲーは存在する。
 それを避けて「デビューに準じる何か」をするには、これまで通りではいけない。たとえば、国内だけでなく国外でもそのダンスパフォーマンスが通用することが、35秒のイントロ中にチャンネルを変えてしまう一般大衆にまで波及するほど実績を積む、とか。
 世界的権威なんてなんぼのもんじゃ、推しの良さは己がいちばんよう知っとるわ! とイキるぼくのようなオタクでなく、推しをデビューさせたい、でかい仕事をしてほしい、ランキング上位に押し上げたい、「なんかすごく偉くて有名な誰かに認められた推し」のすごさを世間に示したい、と考えているオタクのみんなたちは、どうか一度も国外でパフォーマンスしたことないのに「自担くんは世界レベルの実力があるよ! 負けてないよ!」とか言わんといてあげてください。ダサ恥ずかしいので。
 畢竟、オタクは推しに世界なんぞ目指してほしくなかった。一生13月を探していてほしかった。そういうことではなかろうか。
 
 推しが留学してイイことしかなかったオタクの一人として、今回も概ね望み通りにことが運ぶんじゃあないかという予感がしている。毎週のYouTubeもISLAND TVもInstagramもWEBブログも継続ならほぼこれまで通りも変わらない。そもそもわたしはインターネットの上でトラジャと出逢ったし、WEBコンテンツとネット配信を頼りにやってきた。生現場なんてペットのインコだかカメだか使った19名義でせしめられてて禄に入りゃーせんもの。トゲナシトゲトゲのトゲが手に入らなくて悲しむ人はおらんのですよ。もとより無いんだから。
 そんなわたしの都合を抜きにしても、推したちにはのびのび生きてほしい。先輩後輩のしがらみや変に暴力的なようわからん仕事や自宅まで付きまとってくる犯罪者や個人情報売り飛ばし雑誌から解き放たれた環境で自分のためになることだけをしてほしい。そのためならNYだろうがLAだろうが火星だろうがどこへなりと羽ばたいてゆけばよい。忙しかったり気が向かないならweb媒体の更新が減っても構わない。事務所から飛び出て行ったって全然いい。
 ぼくはそう思いました。いつもいつでもそう思っています。
 

北米へ行く推したちへ、そして推しを北米へ送るみんなたちへ、ひとつ言いたいことがある

 本件に関連して、少し前の出来事で、ずっと記事を書かねばと思っていたが持ち前の遅筆とシンプルな労働による疲労で先延ばし先延ばしになっていた事柄を、この際だからついでに並べておく。
 
 此度、留学するTravis Japanが昨年9月から開始した新企画「+81 Dance Studio」において発表した動画のうちのひとつについてである。


www.youtube.com

 この楽曲『トラ! トラ! トラ!』は、シブがき隊が1986年にリリースした17枚目のシングルである。  

 
 歌詞は以下のとおり。
 J-Lyric.net - シブがき隊 トラ! トラ! トラ! 歌詞

 
 楽曲タイトルであり、歌詞のサビ部分でも繰り返し登場する「トラ・トラ・トラ」というフレーズ、これが「太平洋戦争開戦のきっかけとなった真珠湾奇襲攻撃の際に使用された暗号」であることをあなたはご存じだろうか?
 何のことかさっぱりわからない方は、実際に、「シブがき隊」も「歌詞」もつけず「トラトラトラ」単体でググってみるといい。もとになった暗号についてのwikiと、同タイトルの戦争映画の紹介がまず出てくるはずだ。
 シブがき隊の『トラ! トラ! トラ!』のタイトルならびにサビのフレーズが、ただ歌詞に描かれた不倫(婚約中でまだ結婚してないなら「不倫」ではなくない? それとも原義のほうで使ってる?)の三角関係(「トラ」イアングル)にある男女の物語における登場人物「俺達」を三匹の獣に喩えただけではないということは、直前に「暗号」と明言されていることからも確実である。さきに引用した「+81 Dance Studio」公式アカウントのpostによれば「ダジャレや言葉遊び」つまりダブルミーニング・トリプルミーニングの効果を狙っているものだ。さらに、サビの締めくくりにある「出撃だぜ降伏しな」、ここからも「ある種の戦闘」をモチーフにしていることが見出だせる。
 
「戦争というモチーフを用いたポップな表現/消費」の是非はここでは問わない。その段階に達しているのかも怪しいと思われるためだ。そもそも、このことを知っていたのかどうか? オタクのみんなたちはもちろん、パフォーマンスしている彼ら、パフォーマンスをさせている事務所関係者も、わかってて、やっているのか?
 別に、「どうせ歴史の授業中に寝ていたのだろう」と詰りたいわけじゃあない。人には得意不得意がある。私だって歴史のテストでは満点だったが、数学のテストでは真面目に頭から最後まで解いたうえでのガチのゼロ点をとって塾講師に頭を抱えられた。それに、恐らく近年の公教育では「暗号」について習うことはないし、より深く学ぶ高校では選択授業で選ばなければならず、受験に必要なければ(理系選択であればほぼ確実に)素通りしてしまう。実際、同じ学校で机を並べていた旧友も知らなかった。私が歴史の教科書と資料集が大好きで、隅から隅まで読み込んでいたこと、わが家がやや特殊で(お察しください)そういった情報にアクセスしやすい、知識を与えてくれる親のもとに育ったことも原因だろう。ゆえにわたしは、記憶に残るかぎり、少なくとも小学生のうちには「暗号」の存在を知っていた。
 知っているから、この楽曲の作詞を担当した森雪之丞氏はなぜ「奇襲成功」の暗号を用いたのか、当時の事務所はなぜこれを是としたのか、それが終戦から41年経った1986年の当時の大衆にどのように受け止められたのか(シブがき隊はこの曲でその年の「第37回NHK紅白歌合戦」に出場している)わたしにはこれらのどれも、皆目見当がつかないのだ。
 
 かの動画がアップされる少し前の12月6日(アップ日が近くなったのは本当にたまたま、偶然だろう)、報道番組「ニュースZERO」の中で、真珠湾攻撃(1941年12月8日)から80年の節目として、作戦に参加した元空軍兵士の方にインタビューする特集が放映された。番組のレギュラーキャスターであり、特集のインタビュアーを務めた嵐の櫻井翔さんの発言が一部界隈で波紋を呼んでいたことで、私はこの特集のことを知った。
 インタビュー内容はこちらで確認できる。
 「真珠湾攻撃から80年・・・103歳元搭乗員語る」

 「Newsweek」で二週にわたって掲載された記事(2021年12月7日・14日号『櫻井翔と「戦争」――戦没した家族の記憶』)も読んだ。第二次世界大戦に参加し、軍行中に南方の海域で戦死した軍人である大伯父(父方の祖父のご兄弟)のヒストリーを追いかけるという内容だ。ミリタリー趣味からではなく、大伯父その人が本当に戦死したのは何処なのか知りたいという動機から、当時の資料を丹念に読み解いていく、読み応えのある記事だった。(個人的には、今までうっすらとしか認識していなかった「櫻井家」というものが、「親類に旧帝大出のエリート軍人がいる家系」であるということを目の当たりにしたのが本題よりも印象深かった。つまり、結果的に戦没してはいるが、彼の親類はどちらかといえば指令部の椅子から木っ端一兵卒に向かって「死んでこい」と命じる側の人間であり、彼自身もまたそうなのである。)
 今まさに、隣国が他国への侵略戦争をしかけている。それに乗じてSNSでは、舞台『JOHNNYS' World』(現在は『JOHNNYS' IsLAND』)シリーズを通した「ジャニーさんの反戦平和教育」の話題が度々みられた。それ自体は大切なことだと思うが、わたしは彼の描く「反戦」は「若いかわいい男の子たちが兵隊にとられて死んでいく悲しみ」「空から急に爆弾が降ってくる恐怖」という素朴な反戦観の域に留まっているように思える。小中学生相手ならまだわからんくもないし、実際かの人がメッセージを伝えようとしていたのは観客ではなく演者である若い子どもらであったとされている。
 子どもはまだいい――だが、それを観ている客や舞台制作者の側が、大の大人が、まだその域に留まっていやしないか。(自社タレントを『永遠の0』などという映画に出して平気な顔をしていた点において、事務所を信用できないのもある)「兵隊にとられて特攻(自死)する」のはあくまで裏面で、表面は「敵兵を殺すこと」である、という視点を、多くの日本人は意識できていない。そう感じられる場面は多い。
 戦争は天から降ってくるものではない。それが国家間のものであるなら、攻撃した側の国と、攻撃された側の国が存在している。そして、日本はかつて、「攻撃した側の国」であった。此度の隣国の手口・言い分が、かつての大日本帝国と酷似しているとの話もある(おっぱじめる国はだいたいみんな同じことを言うものであるが)
 「ニュースZERO」特集と「Newsweek」記事、どちらにも通底していたのは、「戦争はしちゃいけない」「始めたらダメ。戻れなくなる」というメッセージで、その理由付けにはしっかりと、「殺されること」ではなく「殺すこと」も含まれていた。『ジャニワ(及びジャニアイ)』に直接的な関りのない櫻井さんの視座は、櫻井さん自身のルーツによるものである。
 ……とはいえ、まぁ、かつて『ジャニワ』に出演した彼らも、今『ジャニアイ』に出演している彼らも、一人ひとり訊ねてみれば「戦争、行ってみたいですね! 人を撃ち合うゲームでも高ランク維持してますし、けっこう上手くやれると思います!」なんて言う人はまず居ないだろう。彼らは元社長からのメッセージを、素直に、素朴に受け止めている。そして、素朴に無知でもある。
 
 去る3月18日、ウクライナのゼレンスキー大統領がアメリ連邦議会でオンライン演説を行った。演説はイギリスやドイツ等各国で行われ、それぞれの国の歴史的背景に合わせたメッセージが盛り込まれていた。そして、このアメリカ向けの演説では「911」と並べて「真珠湾攻撃」への言及があった。
 ゼレンスキー大統領のチームは、しっかりとリサーチして各国へチューニングを合わせたメッセージを送っている。つまり、「リメンバー・パールハーバー真珠湾を思い出せ)」はアメリカの人々にとって、80年経って今なお現役の、抵抗・反撃・そして愛国のスローガンなのだ。(わたしは「トラ~」とセットで「リメンバー~」も覚えた)つまり、いままさに海外で名を売らんとしているトラジャを、善意のオタクが善意でもって紹介するときに、うっかり事故る可能性が大いにある。
 
 このことを知っているのか。知ったならば、どう考えるのか。「これってどういういう意味?」と訊ねられたとき、どう伝えるか。「知らんかったわ」で済ますことが一番マズイとわたしは思う。
 この点について、危なっかしいのは語彙力・言語化能力がないないといつも嘆いてるオタクたちで、推しである如恵留さまに対し不安に思っていることはない。自身の頭で考え、言葉にするという選択ができる人だと思っているからだ。「+81」の印象深いパフォーマンスとして度々この作品を挙げているが、3月24日に行われたYouTube Live配信でも語っていたように、あのような楽曲と演技とダンスが混然一体となったパフォーマンスが彼の自己表現の根幹にあり、ジャズをベースとしたシアター系ダンスも最も得意とするところで、振り付け担当の先生ともいい関係を築くことができた。共演したメンバーにも「ノエルにぴったり」と評する、想い出深い回だったのだろう。いや、ホントにパフォーマンスはめちゃくちゃいいんですよ。動画みりゃわかるよ素晴らしいの一言だ。
 でも、ぼくは、やっぱり、「ええけど、ええけども、違う曲であればよかったのにな~」と、思ってしまう。
 ライブ配信での如恵留さまのスカーフの色に何か想い馳せることができるなら、このことも一緒に考えてみてほしいのだ。(スカーフについては、他のメンバーも共通してブルーを衣装に取り入れているので、用意された単なる衣装であるとぼくは思っている。)
 
 締めくくりとして改めて問う。
「海外の、北米の人たちに『トラ! トラ! トラ!』を紹介するとき、あなたはそのタイトルと歌詞の意味をきちんと説明できますか? どういう風に説明しますか?」