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馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで踊るなら板削ぎぬくこころ #アイドル短歌

馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ(塚本邦雄/『感幻樂』)

 川島如恵留さまを想うとき、いつもこの短歌が思い出される。
 言わずと知れた、といっても過言ではないほど有名な塚本の短歌である。馬を洗うなら馬の魂が冴えるまで、人に恋したならそのひとを殺してしまうくらいの鮮烈な心の在り方、それを、是非を語るでもなく(「これが良い」や「こうあるべき」なんて言うこともなく)そのまま「ただ在るもの」としてぽんと提示している。
 
 奇遇にも如恵留さまは高校時代、馬術部に所属していたというから、シチュエーションとしても申し分ない。実際に馬と直接触れあう姿はまだ拝むこと叶わないが、それが世にも美しい情景であろうことは想像に易く、また如恵留さまが手ずから愛馬のからだを洗うとき、この短歌の体現のごとく、魂までも洗い磨ぐようにするであろうことも然りである。
 
 先日放送されたドキュメンタリー番組『RIDE ON TIME』で、如恵留さまは自らを「中途半端」と評した。あんなにも完璧な美しさで舞台に立ちながら、同時に勉強を重ねて高難度の国家資格を取得し、毎日まいにち欠かさずブログを綴り、加えて定期的に一万字ほどのテキストも更新し、番宣動画も最低2本はアップし、自粛期間には計50本の動画を48日間毎日更新し続け、それらすべてを誰に命じられるでもなく自主的にこなしているようなお方が何をおっしゃる、と思うが、しかし、ここでそのようにコメントを「してしまう」からこそ、だからこそ如恵留さまなのだろう。「頑張らないで」と先輩に指導されてなお、たった一度の稽古で「うまく出来ている感じがしない」と歯噛みするほどに。
 現状に満足しない、圧倒的な向上心。探求心。高潔さ。舞台にかける情熱。
 
 馬の魂まで冴えるように洗うとき、その人の魂もまた冴え冴えとしているに違いない。そんな魂を持つ者が踊るなら、きっと舞台の床板が削れるまで、つやつやに磨かれたタップシューズの底が擦り切れるまで踊るはずだ。鋭いまでに真っすぐ伸びた背筋で、つま先から指先の一本いっぽんに至るまで神経を通わせ、纏う布地の動きをも操っているかのように。そげた頬の上に黒目がちな瞳を爛々と輝かせながら。
 冴えわたる魂がそこにある。彼のパフォーマンスを観るだに、そう思う。
 
馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで踊るなら板削ぎぬくこころ
 

塚本邦雄全歌集第二巻 (短歌研究文庫)

塚本邦雄全歌集第二巻 (短歌研究文庫)

  • 作者:塚本邦雄
  • 発売日: 2018/06/26
  • メディア: 文庫

(圧倒的な存在が好きだ。過剰であればあるほど好い。馬の魂が冴えるまで洗う。ひとを殺してしまうほど愛する。それくらいの気概、哲学、譲れない思想信条のようなもの。馬はともかく人殺しは倫理にもとるれっきとした犯罪行為だ。私はわたしの「愛」が原稿用紙の枠の上からはみ出てはならないものだと自覚している。そのように常軌を逸したものを愛することはけして褒められたことではないし、「そのように在れ」と他人に求めるべきではないから。でも、それでも、そのように在ってしまうものたちへの、憧憬にも似た感情を止められないのだ。
 二週間ひたすらメンバーの誕生日を祝う動画を撮影する。たった一言の言及に、己の記事全部使ってレスする。たったひとりで東京から大阪まで自転車で旅をし、海外の奥深い村へと出かけていく。ある日とつぜん北米留学する。夜空にきらめく星々は燃えさかる炎の塊だ。美しく輝いて見えるのは遠くから眺めているときだけで、近付けばたちまち焼き尽くされてしまう。そういう圧倒的なこころに、私は遠くから、圧倒されていたい。)