王と道化とその周辺

ちっぽけ嘘世界へウインクしておくれよBaby

2020年買って良かった音源

お題「#買って良かった2020
 
 あけましておめでとうございます。
 恒例の「今年買ってよかったアイテム」系記事への憧れがあるものの並べて語れるようなジャンルが音楽しかなかったので素直に音楽だけを並べていく企画。三年目ともなればもう「恒例の」と枕を付けても怒られまい。
 例によってが2020年に「買った」音源なので「2020年リリースのもの」というだけではないです。去年は対バン、フェス系企画に参加できなかったのもあって新規発掘が少ない。引きこもりエンジョイ勢を自称していても、こういうとこで影響はやっぱりあるもんだなぁ。

『Mount Wittenberg OrcaDirty ProjectorsBjork

 昨年8月、開催延期となったフジロックFes.
 その代わりに予定されていた3日間、過去の公演映像と収録映像を織り交ぜて無料配信する「FUJI ROCK FESTIVAL'20 LIVE ON YOUTUBE」という企画を立ててくれた。まことにありがたいことであった。
 洋楽にはてんで疎く、アンテナもとくに貼っていない人間なので、カッコイイ洋楽を摂取するのはもっぱらフジロック中継だったのである。
 例によって文筆作業しながら配信を流しつつ「うおーどのバンドもカッコイイぜーー」なんてぼんにゃり思っていたところへ、急にガツンと殴り掛かってきたのがこの曲。


Beautiful Mother

 ボーカル何人いるんだ。なんだこのクセになるリズムは不規則にしか思えんハンドクラップはいったい何拍子だ。なんだこの絶妙に気持ち悪いのに絶妙に気持ちいいサウンドは。何者だこの人たち、と慌てて配信画面の隅をチェックした。――Dirty Projectors.
 あとでちゃんと調べたらBjorkが関わってた。そりゃあ引っかかるはずだわな。

『BL』女王蜂

 はらだ先生作画のジャケットが欲しかった(なんてったって「はらだ先生」で「BL」なのである!)のにうっかり通常版を買い逃し、秋の始め頃にようやく買えた。
 その数週間後まさかの方向で伏線が回収されることになるが、このときの私は知らない。


女王蜂 『P R I D E』Official MV

 くさくさした気持ちのときは『PRIDE』を聴きながらガシガシ街を歩くと若干気分が上向きになります。

CY8ERCY8ER

 ぼくとCY8ERのおもいで。
 ぼくがCY8ERの名前を知ったのは、6月に配信された「おうちでたのしむ真空ホロウ STAY HOME LIVE」vol.3にメンバーの病夢やみいさんがゲスト参加されていたからでした。綺麗な歌声してる方だなぁ、と思い、そのうち検索するぞリストに入れておいたのを覚えています。でも、そのときはリストに入れただけでした。
 それからずいぶん時がたったある日のこと。なんとなくつけたTV「関ジャム」でアイドルソングが特集されていて、「歌声がすごいアイドル」として苺りなはむさんが紹介されたのです。衝撃的でした。確かにすごい声だった。しかも所属グループはあのやみいさんのいるCY8ER。今回ばかりは即検索をかけました。いちばんに出てきた動画がこれでした。


CY8ER「 伝えたいこと 」

 武道館公演、そこで解散。
 始まった瞬間に終わらせたる、という強固な意志に惚れました。
 なんといっても曲がめちゃくちゃいい。りなはむさん、やみいさんの歌声はもちろん、他のメンバーの歌声もキャラクターやセンスがしっかりあって、あとやっぱり曲が良い。 「おうちホロウ」でもアレンジを披露されていた『ハローニュージェネレーション』、『マイライフ』『幽霊屋敷』 がとくにお気に入り。
 もっとはやく知っておくべきだった、という風には思わなかった。私にとってはこれがベストタイミングで、これで良かったのだ。
 

『Fab! —Music Speaks.—』Hey! Say! JUMP


Hey! Say! JUMP - 狼青年 [Promotion Video (Short Ver.) ]

 あなたたちは知らない。
 平成は30年以上かけてとっくに終わっていることを。
 あなたたちは知らない。
 彼らはもう年端のいかない子供ではなく、すでに10年以上活動を続けていることを。
 あなたたちは知らない。
 ほぼ毎年シングルCDを出して何十曲を歌いこなし、
 年一でコンサートツアーを行い、
 バラエティや音楽番組、ドラマに舞台に出演する傍らで稽古に励んできたことを、
 今もどれほど修練を重ねているかを、知らない。 
 
 あなたたちは知らなかっただけだ。
 しかし、無知こそ罪悪だと知るべきだ。

 なーんて。
 覆面ユニット期間に公開されていた動画に集まってくるコメント「こんなに踊れるなんて知らなかった!」を見ていて、なんだかな~~ともやってたところに、アルバム発売後に放送された特番「オールナイトニッポンGOLD」での知念さんの「一生顔隠してたほうがいいのかも」という発言を聴いて、ちょっと打ちひしがれてしまった。
「アイドルらしい」はいまや罵り、蔑みの言葉として地に満ちている。否、罵り言葉でなかった時代なんてあったんだろうか、とすら思う。メトロックにシークレット出演した関ジャニに向かって、「アイドル“なんて”やめてバンドの世界に来ればいい」というような言葉で「褒めて」いた人と、それを「褒め言葉」として受け取るツイッターランドのファンの姿を見たときも同じだった。あのとき、「アイドル事務所から来ました」と堂々宣言した渋谷すばるはもう、ジャニーズ事務所に居ない。
「覆面アーティスト」として新曲を出す、この実験は無知蒙昧な人類どもに「アイドルって、Hey! Say! JUMPってすごいんだ」と思わせるところに帰結しなければ意義がない。「アイドル“なんか”にしておくのは勿体ない」と「褒め」させてはいけないし、そいつはこれっぽっちもわかっちゃいないんだってことを示さなければならない。——実験の結果はどうだったのだろうか、はたして。
(ところで、『狼青年』が『BL』の前日譚だとすると、推しドルが公的にBoy's Loveをモチーフにした楽曲を歌ったことになります。嗚呼、令和! )  

『Turning Up』嵐

 ぼくと『Turning Up』のおもいで。
 一昨年(2019年)の年末、ぼくはMステスーパーライブを見ていました。トリを務めたのは嵐。新曲と名曲メドレーを披露するそうです。
 満を持してYouTubeに進出、一発目に出した新曲が大層かっこいいという噂はかねがね聞いておりましたが、実際に見てみると確かにかっこいいな、いやめちゃくちゃかっこいいな?! と、眺めていたそのとき、画面内に見慣れた、ぼくの大好きな玉虫色の衣装が、とつぜん、飛び込んできたのです。
 デビュー組のバックにつくJr.を予め明かしておくことが増えてきたこの頃。ぼくが初めてTVに無告知登場する推しを見たのはこの曲でした。


ARASHI - Turning Up [Official Music Video]

 ジャニーズにハマる前も後も、嵐というグループに直で世話になった記憶はぶっちゃけそんなに無い。ぼくとしては知念さんの尊先であり、山田さんのゲーム仲間で、「Sorry,JUN」(リアルタイムではなく後追い)なだけある。
 しかし歌番組でメドレーを聴けば、だいたいの曲のサビだけ何故か口ずさめるし、『A・RA・SHI』のラップパートの合いの手も、サビのフリも教わってないのになんとなく知ってる(2019年10月オースティン・マホーン来日公演のOAでTravis Japanが歌ったとき、自然に体が動いて衝撃を受けた。何故か「できる」のだ!)そして現在推しているJr.がコンサートで披露する先輩のカバー曲で、「知らないかっこいい曲」はだいたい嵐の曲なのである。
「トップアイドル」とはつまりそういうものなのだろう。
 2020年末、紅白歌合戦の裏で生配信をしていた彼らのバックには関東のグループ所属Jr.がほぼ全組参加していた。もちろん無告知であったので、ぼくは大人しくTVでJUMPさんと少年忍者くんを見ていた。
 そして配信会場から中継で登場した紅白歌合戦。彼らの後ろには、見慣れたピンクの衣装。なんだかんだでだいぶ世話になってしまったな、と思いました。
 再配信はこれから見ますね。
 

『命の灯』ヒカリノハコ


「命の灯」MV Full Ver.

 我が最愛のバンド真空ホロウが、疫病禍で苦境に立たされる地元茨城のライブハウス「水戸LIGHT HOUSE」を中心とした水戸の音楽シーンを活性化させるべく参加したプロジェクト、ヒカリノハコ。
 発起人であるTHE BACK HORN、COCK ROACHをはじめ、MUCCや石崎ひゅーい等、そうそうたる茨城出身バンド・アーティストが参加しています。

 茨城のバンド、というとMUCCのとある楽曲でも「(茨城)出身バンドはだいたい暗い」なんて(自虐的に)歌われる始末なのだが、そんなバンドが集結したヒカリノハコプロジェクトなわけだから、この情勢やテーマとの合わせ技でやっぱり暗い。腹の底にずっしりとくる、重厚な暗さだ。
 でも、その暗さの中には、ほんの一筋差しこまれた、細い縒り糸のような光がある。それは以前から茨城出身の推し盤たちの楽曲に感じていたもので、その源流がこれなのだと思った。
 死神はいつも隣で笑っている。その隣で絶やさす灯し続ける光。「LIGHT HOUSE(灯台)」が、先の見えない闇夜でもそっと照らし道しるべになってくれるのだろう。

 これはまぁどうでもいい話ですが、某演劇の配信公演の直後がこのプロジェクトの中心メンバーによるクロストーク企画の配信だったので、「一時間の演劇より6分半の楽曲のほうがメッセージ性あるな……」としみじみ切ない気持ちになったりしましたね……ええ……。

『Torch.4』松本明人

ソロプロジェクト期から始まったTorch.シリーズもついに4作目。 『Torch.3』と同じく収録曲の投票企画をし、そこで決まった上位3曲プラス新曲1曲。「『Torch.』を作り始めたときから、4作目を作るときには入れようと構想していた」という『倒置法(とうちほう)』のダジャレもとい言葉遊びがいかにも松本さんらしい。
『陽炎』はソロ期から定番のドロドロ情念系ソング。ジャンルとしては歌謡曲が演歌にほど近かった時代のそれなのだが、あまりにも「それっぽさ」が強すぎるゆえに「過剰に盛ったパロディ」のようにも思えてくるが、その過剰さこそが真髄である。「そういう歌謡曲」の平均数値を100として、『陽炎』はデフォルトで120陽炎(謎単位)あるイメージ。さらにライブで聴くときは日によってパフォーマンスのドロドロ度が変わってくるので、「今日の『陽炎』は150陽炎だった」「今日は200陽炎ぐらいあったわ!」なんて勝手に評していたりしました。
『マグネット』は投票企画で初お披露目の完全新曲でありながら一躍人気となり収録に至った楽曲。新体制ホロウらしいこじれた恋愛関係をテーマに、旧~ソロ期の『%』『カラクロ・メイロ』のようなエッジのきいたサウンドと尾韻を意識した歌詞で、新規性と「らしさ」がうまく絡まっていて良い味わい。ていうか、『缶ビール(仮)』でも思ったけど、恋愛テーマの作詞めっちゃ上手くなりましたよね?? 『缶ビール(仮)』は2019年発売のアルバム『たやすくハッピーエンドなんかにするな』のアートワークを手掛けたごめんさんの個展の会場で客演時に即興披露したものなので、外部の監修は受けていない、はず。


【180°立体視VR】缶ビール(仮)(short ver.)/ 真空ホロウ × ごめん

(これはある日突然アップされた推しがビール買ってきてくれる謎動画です。)
 あ、そうそう、『ホーム』さんの収録も、お待ちしていますよ!

『KINDER ep.』真空ホロウ


【ティーザー】 「KINDER ep」DIGITAL RELEASE / 真空ホロウ

 たまたま2月中に大きなツアーを無事終えることができ、(単発の企画はいくつか流れたものの)そのままエンタメの自粛期間に入ることになった真空ホロウは、どちらかといえば幸運な側だったようにも思える。
 が、会場限定売りの自主製作盤が主なリリースの場であるインディーズバンドにおいて公演の自粛が相当な痛手であったであろうことは想像に難くない。
 そしてことの真っただ中の6月――私が在宅勤務と出勤業務の切り替えであくせく動き回っていた頃、新譜がリリースされた。デジタルリリースだった。
 自粛期間中に己と音楽とで徹底的に向き合って「純粋に音楽をたのしんでいた童心に還る」ことをテーマに「KINDER(子どもたち)」と名づけられたこの盤は、同一テーマで歌われるリード曲『マイムマイム』、おうちに居ながら世界の一端に触れられ、それでいてバーチャルでしかないSNSでの苛烈な誹謗中傷事件に言及する『プリーズアップデート』、ソロ名義の弾き語りver.として『Torch.3』収録済のものをデジタルバンドサウンドにリアレンジした『満天の星』のパックだ。
 
『マイムマイム』はもう何年もライブでやっているが、初めて「あなたと生きていたい」というフレーズを聴いたときは、ああここに帰結したのだな、と思った。柄にもなく、泣くかもしれんと思った。
 真空ホロウの世界における「わたし」・「あなた」二者間の関係は、境界があいまいで、主体の自我は不安定で、出会った瞬間から急に「愛し合う」ようになるし、「僕」はいつも「君のように、君みたいになりたい」と切望していた。
 それが2015年からの体制変動を経て、『満天の星』では「あなたと話したい/あなたと見てみたい」になり、『マイムマイム』で「あなたと生きていたい」になる。そして会場限定販売の小説『おんなごころ』特典音源『』(タイトル不明)にはついに「僕は君じゃない/君は僕じゃない」というフレーズが登場するのだ。
 そこでは不安定に重なり合っていた二者間の人格は完全に分離され、くっきりと境界線が引かれ、「わたし(自己)」と「あなた(他者)」が出現している。そして、そのうえで他者たる「あなた」と「語り合い」「同じものを見て」「生きて」いこうとする。
 
 「君みたいになりたい」もひとつの愛だった。けれど、「あなたと生きていたい」も、究極にシンプルな愛だろう。
 

おまけ 『Ray』真空ホロウ


【MV】Ray / 真空ホロウ

「ほら、笑って」と促されてほっと笑えるときもあれば、「笑ってなくていいよ」と言われてようやく安堵するときもある。
 
(地をゆるがすような出来事に見舞われたとき、彼らはいつも「異様だ」「不安だ」「嫌いだ」とネガティブな気持ちを隠さないでいる。隠さないままに寄り添う。この世は異様で、毎日が不安で、あなたのことも世界も大嫌いだ。でも、それでも、生きている。)