王と道化とその周辺

ちっぽけ嘘世界へウインクしておくれよBaby

音楽を聴くこと、ダンスを観ること、クイズを愉しむこと

 音楽を趣味の一つとしている。
 そのためにCDを買ったり、好きなバンドのライブに足を運んだり、年一回「今年買ってよかった音源」まとめ記事を書いたりする。
 舞台音楽も好きだ。子どものころから親の趣味で劇団四季などのミュージカルに親しんできたし、今でも自分でチケットを手配して観劇に行く。色々と習い事もさせてくれる親だったので、ピアノ、バレエ、バイオリンなど触ってみたりもした。しかし、稽古嫌いのものぐさ太郎にとって一番効果があったのはゲームセンターにあるゲームの音楽だった。
 中学のときに音楽シミュレーションゲーム、いわゆる「音ゲー」にハマった。「BEMANI」はKONAMI社製音ゲーの総称で、多い時には5機種ほど並行してプレーしていたが、メインは「pop'n music」「Guiter Freaks」「jubeat」だ。ギタフリでは、ロックサウンドリードギターのほか、ベースパートも演奏することができ、サウンドコンポーザーにはベースをメインで演奏するベーシストの方がいた。作詞・作曲・アレンジャー・レコーディングエンジニア、色々な役割をもったスタッフが楽曲に係っていて、お互いの楽曲で得意の楽器パートを演奏しあったり、歌詞を書いたり、にぎやかしのコーラスに総出で参加したり、時には東京から神戸への出張時に自宅へ留めてもらったエピソードなどがWEBサイトの楽曲紹介ページで語られていた。「変曲リレー」という名物企画では、「編曲」次第で同じメロディーの楽曲がいかようにでも印象を変えることを、個性豊かなコンポーザーたちが面白おかしく教えてくれた。
 音ゲーのおかげで私は、音楽に多種多様なジャンルがあることを覚え、ボーカルのないインスト楽曲に親しむことを覚えたし、メロディーを奏でるボーカルやリードギター以外の、ベース・ドラムス・ホーンセクション・ストリングスなどのパートを聴き込む癖がつき、サントラのライナーノーツで曲ごとの作詞・作曲・編曲・演奏のクレジットを確認するようになったのである。
 
 時は流れ、ジャニーズ事務所所属のグループにハマった。(かつてKONAMI音ゲー開発チームで働いていたコンポーザーが、時折推しグループ楽曲の「編曲」を担当していたり、奇妙な繋がりがある)
 事務所所属タレントの中には、自ら楽曲を制作したり、コンサートの衣装をデザインしたり、ステージ演出、振り付けなどを手掛ける者も多い。とくにTravis Japanというグループは、そもそも「あのマイケル・ジャクソンの振付師」であるところのトラビス・ペイン氏がメンバーを選出したグループであるがゆえ、ダンスへのこだわりが強く、6時間で1つの作品の振り付け演出をゼロから作る企画(BSフジにて過去4回放送された『Travis Japan ×~』のシリーズ)もある。主に振り付け構成を考案するメンバーは吉澤・宮近・七五三掛の3人だが、6時間振り付け企画を通して他のメンバーも参加するようになり、2022年のL.A留学後、世界的ダンスコンクール「WORLD OF DANCE」に参加して上位入賞を果たした振り付けは、メンバー全員が参加して作り上げたもの(総監督は宮近さん)だという。

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 また、2021年に始まったYoutubeの「+81 Dance Studio」では、気鋭の若手振付師たちとコラボレーションしたパフォーマンスを配信している。そこでは自分たちだけのパフォーマンス動画のみならず、振付師の方も動画内で共演する「feat.Choreographer」バージョンの動画も配信されている。ダンスがただ「パフォーマーの作品」としてあるのではなく、ダンスを「振り付け」した者がいる、ということを明示していくのは、ダンス業界・振付という仕事の周知および地位向上が意識されているだろう。
 思い出すのは2022年1月に放送された特番『中居正広のダンスな会』で、TRFのダンサー・SAM氏が「グループの一員なのに、自分たちダンサーはスポット(ライト)を当ててもらえなかった」と語っていたことだ。ボーカル混合ユニットではダンサーはモブ扱い、ならば尚のこと「ダンスの振付師」なんて顧みられやしない。
 現在、ジャニーズはもちろんLDHK-POPアーティストが様々な場で活躍し、「ダンス」自体の文化的地位は向上しているように思う。では「振り付け」はどうか? 音楽番組などでアーティストがパフォーマンスを始めるとき、楽曲のクレジット(作詞・作曲)は見ても、ダンスの振付師の名前はほとんど見ない。あってもその人自身がよほど有名なダンサーでなければ、「振り付け:誰々」のテロップは目に入らないのではないだろうか。コンサートDVDやパンフレットをみても、どの曲が誰の振り付けなのかという記載はない。調べても出てこない。
 先日、北米で放送された「America's Got Talent」にトラジャが出演した際、審査員の一人が「この曲の作者は?」と質問した。そこでメンバーは咄嗟に「わかりません」と答えて笑いをとったわけだが、やはりこの場でも「振付師は誰?」と聞かれることはなかった。

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 オタクたちの大半も「夢のHollywood」の作曲者名をすぐには答えられなかっただろう。そしてオリジナルの振付師も知らない。あの日のパフォーマンスの構成を考えたのはメンバーの宮近さんで、間奏パートに「LockLock」という別の曲の振りを引用したことは知っている。そして「LockLock」の振り付けを手掛けたのがKis-My-Ft2の千賀健斗さんだということも知っている。なぜなら、彼がジャニーズのアイドルでトラジャの先輩だからである。
 
 
 突然だが、2020年の自粛期間中、私はQuizKnockのYoutube動画にハマった。QuizKnock自体は、我が推しである川島如恵留さまがクイズ番組等でメンバーの皆さんと共演する機会が度々あり、如恵留さまも自身のブログ等でQuizKnockのファンであることを公言していたため、2019年内には知っていたが、動画を見始めたのは20年に入ってからだった。
 あの頃のあの状況下、さすがの私もやや参っていたところへ、ちょうどよくQuizKnockは刺さった。ほどほどに難しく頭を使うクイズに脳の容量が割かれ、余計なことを考える隙を上手いこと埋めてくれたのだ。
 もともとクイズ番組は好きだった。開成高校高校生クイズで2連覇した年もしっかり見ていたことに、SNSの投稿ログを振り返って気づいた。伊沢社長のことは記憶になかったが、人気企画「朝それ」で田村さんを見たときすべてを思い出したのだ。パズルのピースがかちっとハマったような衝撃であった。
 QuizKnockを追いかけ始めて、競技クイズ自体の面白さはもちろん、「企画クイズの作問をする側」に目が行くようになった。主に企画チームとして問題を作り、出題する側のふくらP・河村Pも、ときに画面内で回答者として得点を競い、プレーヤーとして立ち回る伊沢社長ほかメンバーも、ときに画面外から出題する側になる。企画に盛り込まれたギミックや得点状況でプレースタイルが変わったりする「プレーヤーとしての楽しみ」のほかに、「問題を読みあげる技術」も交えた勝負をしたり、「出題の意図」が解説されたり、「作問の過程」をも企画として見せてくれたりする。2021年には「観客の作ったクイズをその場で添削する」イベントまで開催している。「作る側」「解く側」の比重がほぼ同じくらいの割合で存在し、双方がクイズという文化に欠かせないものとして示されているのだ。
 2022年春、QuizKnockが主催した初のクイズ大会「High School Quiz Battle WHAT」の公式WEBサイトに掲載された大会長・河村氏の声明文を読んだ。「世界はクイズを知る。」の段で語られていたことは、この頃ずっと考えていた物事に繋がっているような気がした。
 
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クイズは世界の中で、まだ文化ではない。文化になれていない。クイズよりも優先してやるべきことがあると思われている。この大会の目的は、世界、つまり社会に、クイズという文化の存在を認めさせることだ。
「WHAT」公式WEBサイト・声明文より引用)

 「クイズ」の文化的地位向上。それは同時に「クイズ作家」の地位向上であり、その仕事に「敬意を払う」ことはすなわち「見合った対価を払う」ことだ。QuizKnockの立ち上げには、そのことへの問題意識があった。
 そして彼らの企みは成功していた。クイズの楽しみとともに、作問そのものを読み解く楽しみを見出した私の存在がその何よりの証左だ。QuizKnockに出会うことでクイズ番組や大会の「問題」は「クイズのなる木」からもいでくるのではなく、熟練のクリエイターが創意工夫を重ねて生み出した「作品」だと私は理解したのだ。
 
 それは振付師の仕事に似ていた。画面内にいるのはパフォーマンスしているダンサーだけだから、そのダンスは「振り付けのなる木」からもいできたもののように扱われているのだ。熟練のコレオグラファーが考え抜いて生み出した作品であるにもかかわらず、である。
 私は思う。ダンス・振り付けという仕事が顧みられない世界で、推しグループの「メンバー全員が振り付け演出できる」ことは意味を成さないのではないか。音楽番組で、YouTubeの公式MVのキャプションで、楽曲のクレジットとあわせて振付師の名前が載らない世界では、推しの作った振り付けも「作品」としての価値を認められないのではないか。推しがこれまで磨いてきた技術・発想力・構成力が、ただその辺にあるものを拾ってきたみたいに、無為に――無償で使われるだけになってしまわないか。
 
「+81 Dance Studio」に話を戻そう。トラジャは「振付師」がメンバーを選び、メンバー自らも振り付けができる。メンバーが振り付けしたならば、誰が手掛けたものなのか必ず教えてくれる。童謡に振り付けする企画では、考案した閑也さんにきちんと感謝を伝えていたし、2020年の配信ソロコンサートで如恵留さまは、ある1曲に振り付けした閑也さんの名をテロップで画面に表示させた。「LockLock」「Talk it! Make it!」の振り付けをした先輩の千賀さんにも、「+81」で「Shake」のコレオを手掛けたKing & Prince 高橋海人さんにもリスペクトを惜しまない。彼ら自身がそういった気質を持ち、彼らを好いているファンダムもまた、推し自身が「振付師」であるからこそ「振り付け」に興味を持っていることが多い。そういった土壌であったから、「+81」はトラジャを要求し、トラジャもまた「+81」を希求したのではないかと。
(また、この企画の動画では他にも、スタジオに投影される映像技術や色彩設計の担当者の名前もクレジットされている。動画という作品をともに作るプロフェッショナルへのリスペクトを感じられて、この企画全体がいい仕事をしていると思える所以である。)
 ダンスという文化、振り付けというプロの仕事へのリスペクトを持つこと。ダンスパフォーマンスの業界全体を盛り上げていく試み。それが「+81」で、短期的なダンススキルの向上と同時に、もっと長期的で広範な成果が――まだ‟祈り”のようなものだが――期待されているのでは、と私は思う。
 だからこそ、留学のために「+81」のスタジオをずっと空けたままでいるのは得策ではなく、後輩Jr.に仕事を一部引き継いでもらうべきだと私は考えている。トラジャの都合だけでプロジェクトを停滞させていては、業界の活性化には繋がらず、事務所が――トラジャが一方的に振付師を「使って」いるだけになってしまうからだ。
 

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 先日、トラジャが自身のInstagramライブ配信を行った。その際、新たに始まった「+81」の2nd seasonの楽しみ方として、「ダンスを観て振り付けを担当した振付師を予想する」を提案していた。そして、一見してはわからなかったが、答えを見てみれば、以前その振付師の先生方(今回はSIS)とのレッスンで見た資料映像を思い起こさせるものだった、という話でおおいに盛り上がっていた。
 その配信を見ていたのであろう、振付師の予想として名を挙げられた「GANMI」のメンバーは以下のようにTwitterにPOSTしている。

 そういうことである。
 同じく、クイズに答えつつ「作問者」を当てるQuizknockの企画を紹介して、この緊急特別記事を締めくくりたいと思う。

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(ぼく、たぶんイツバとデカメロンの周平先生なら当てられる気がするなぁ~~~)

ショートミュージカル30連発の超ゴージャスなステージ~Zepp NAGOYA『BLACK TOUR 2022』~

序——2021年、春

 その報せは本当に唐突だった。

www.youtube.com

 この9年見続けてきた最推しバンドマン・「様」こと松本明人さまがゲームのキャラクターの声優? シンガー? をやるらしい。「なんぞこれ?」「どなた?」「ていうかブラスタて? ワルメンて何??」「生配信のサプライズゲストはおやめになtt あっアーカイブあるんですねありがとうございます!!」と様々な疑問符が脳裏を反復横跳びするが、調べていくうちにいわゆるスマホソシャゲで、乙女向けのリズムゲーであることが判明。そしてこのゲームではストーリーパートでキャラクターの台詞を発する声優は、楽曲でキャラクターとして歌わず、歌唱担当のシンガーが別個に存在するという方式(ようはランカでなく、シェリル・ノーム)(この喩えがすでにオタク老人会) をとっているらしく、推し盤麺はその歌唱担当になったのだ、と理解した。
 これまでに参加しているシンガーはいわゆる「歌い手」系の若手さんやタレント業も兼ねた華やかな方が中心……かと思いきや、小林太郎さんなどロック畑で見知った方もいらした。この手のソシャゲのイベントといえば声優陣が登壇するものをイメージするところ、シンガーのみの出演するライヴイベントも開かれているらしい。
 概ねの状況は把握したところで、肝心なのは楽曲と音ゲーのシステムである。ゲームをDLし、ソシャゲーマーの哀しい習わしとして30周ほどのリセマラで屈強な赤毛の兄ちゃんに60回くらい壁ドンされたのちに、なんかいい感じにレアっぽいカードを手に入れてから、ゲームのメインたる「公演(音ゲー)」を確認した。……めっちゃ曲イイじゃん。ゲーム自体のヴィジュアルにはいかついハードロックの趣きがあるが、5つに分かれたチームのうち、ポップス系、クラブ・EDM系、ショーテイストの楽曲もあり、総じてパフォーマンスされることを見込んだもののように感じた。ブラスタにおける「公演」はシナリオ前提で、シェイクスピアなどの戯曲ほか文学作品を原作としたミュージカルのようなものであるらしい。推しの楽曲が解禁されるまでに一通り触ってみて、太郎さんの変わらぬロックスターっぷりに、『日蝕』をはじめとしたB楽曲のカッコよさ、同じくシェイクスピア作品が題材の『To be~』など心躍るものが数多くあった。(シェイクスピア題材曲名曲多い説ない?)
 楽曲の良さと同時に、ブラスタにハマった理由は音ゲーパートにもある。20年来のKONAMI製アーケード音ゲーマーでもあるこのワタクシ、スマホ音ゲーもいくつか触ってきたものの、ずっとあった違和感の正体にようやく気付いたわけです。「縦長画面でノーツが四角くて上から下に流れてくる音ゲー」でないからしっくり来なかったんだと。加えてソフランしたり急加速から停止したりするギミックはDDRの激難譜面を思い起こさせ、ゲーセンに通いづらくなった僕の音ゲーマーの部分を潤した。特効カードなしでも地道にやれば報酬☆5に手が届くバランスもよい。
 こうして、すっかり音ゲーとしてもブラスタを受け入れる姿勢になった一方、気がかりはブラスタ側のみんなたちの反応である。明人さまの歌唱力に関しては泣く子も黙って( ˘ω˘)スヤァ...するレベルであるから一点の不安もない。初公開時の生配信でのコメントを見ても好感触のようだ。キャラクターを「演じる」にあたっての洞察も、様自身のオタク気質からみて問題はないだろう。また、当人のキャラクター性も、二次元オタクにウケることは確実だ。僕という前例がそれを証明している。
 そして何より――僕自身はそのタイプのコンテンツに触れたことはないものの――推しに声帯が実装されるということはある種の「安泰」を意味すると知っている。ストーリーに不穏な要素が多いらしい「胃が痛い」世界観であることは漏れ聞いていたので、良かったなぁ夜光くん推しのみんなたち……と謎目線から労りの言葉を投げかけたのだった
 が、
 まさか推しの声帯実装イベントラストで実装キャラが退職するとは思わまぁが。
 
(後日、定例LINE LIVE内で夜光くんが退職することを様自身も知らなかったと語られたときはマジかぁ……となりました。)
 安泰とは……? という顛末に、なるほど胃が痛いわけだよとブラスタというコンテンツの洗礼を受けつつも、頭の隅には「なんぼなんでもこんな風にキャラロストするわけがなかろうよ様を実装しておいて(圧)」という気持ちがあり、アプリはアンインスコを免れた。というか、ふつーに音ゲーとして面白いので、ぬるぬると続けていた。
 案の定、しばらくの後になぜかKチームで復帰し、チーム別の3周年記念楽曲にも参加し、ソシャゲ的にはリキの入るイベントだろうクリスマス期にはソロ曲まで引っさげてきた。今後もしばらくブラスタの世話にはなりそうだと思いながら2021年は暮れていったのだった。

前夜――2022年ツアー発表、そして

 明人さまはシンガーとして順当に、ゲームイベントへ参加し始めた。ハロウィン、年始イベントについては別界隈の推しに忙しく(≒出費が激しく)、また別の迷いもあってチェックしなかったところ、3月には地方公演も含むツアーが発表された。地元名古屋でも公演があるときたらスルーするわけにもいくめぇ、とチケットを手配した。昨年と比較して、推しの参加楽曲が増えたことも一端である。4月には『沈まぬ月』収録のアルバム『BLACKSTARⅢ』も届き、ブラスタへのモチベーションをぐっと盛り上げていった。
 ツアーは無事初日を迎え、公式垢から流れてくる記念写真等で“あの”様が(ド失礼)共演者のみなさまと仲睦まじくされていることに感激してはいたが、僕は基本的に無予習の現場を好む質であるため、本編レポなどは極力目に入れないようにしていた。
 が、
 ある日、なかなか魅力的な出演者の相関図的ファンアートが流れてきたことをきっかけに、ついうっかりライヴレポを開いてしまい、そこで衝撃的な事実を目の当たりにする――、
 
 あの、ひょっとして、もしかしなくても、様、踊るんです??

当日――踊った。

 以降。僕はうっかり気づいてしまった「様、踊るかもしれない」という事実に、ふと思い出しては怯え魘される日々を過ごすこととなる。えっほんとに? 本気で? 見間違いでは?(?)
 奇しくも――昨年、アイドルのほうの推しが所属グループを脱退し俳優業に専念するはこびとなった。それは実質的に彼がもう「踊らない」ことを意味していた。今後、舞台上の役柄として以外ではダンスらしきものを見る機会はほぼ無いのだろう。対して、本来、ステージ上でかっちりフリをつけて踊るということはないはずのロックバンドの推しは踊るかもしれないなんて、人生何が起きるかわかったもんじゃない。(ちなみに推しドルより先に映画デビューもしている。何で?)
 否、様はこれまでもけして踊っていなかったというわけではない。彼はギターを弾きながら身振り手振りでも楽曲を表現し、歌う己が自身の姿をも作品の一部とする。踊るように歌い、演じるように歌い、歌うように話し、歩く。その独特のマイムを見るために、僕は真空ホロウのライヴに足繫く通うことになったようなものだ。しかし! それらはあくまでギターを構えた上での動きであり、妖しげな楽曲の演出としてのマイムと、ブラスタの現場で見られるものはきっと違う。なんというか、攻撃範囲が。どうしよう俺、わけもわからずZepp名古屋壊しちゃうかもしんない。
 そんな浮ついた気持ちを抱えながら時間ギリギリにたどり着いたZepp NAGOYA。既存グッズの持ち合わせもなく物販に立ち寄る余裕もなかったので、うちわは勿論ぬいもペンラもなくタオルは「健康」のやつ、とほぼ丸腰参戦である。二階席前方。ステージ全体を見渡せる好立地だ。
 
 以下、例によって帰り道での脳直箇条書き感想文(筆者はバンドとジャニーズと舞台の愛好者であるためその界隈からの視線が多分に含まれます)
 
 
・ダンサーさん思ってたより多い。デ組コンにつくグループJr.くらいおる。
・お、おる~~~~(新鮮なきもち)衣装的な衣装着とる~~~~~~(超新鮮なきもち)
・開幕から紅に白とは景気がよい。そして開幕がダンス主体のC曲だったのでノーペンラ丸腰参加マンのワイも「踊ればええんや!」と気づく。
・楽曲ジャンルが多種多様ということはダンスパフォーマンスのジャンルも多種多様ということで、これ滅茶苦茶楽しいやつじゃん!
・多種多様な楽曲を多種多様なダンスパフォーマンスで魅せるやつ www.youtube.com ・↑これ、ブラライのパフォーマンス好きな人は是非みてほしい。近いものがある。
・最後、しゃけさんを中心にとぐろを巻いた蛇が見えて感動した。Cはダンスつよいを一発で理解した。
・公演……なるほどこれが「公演」……!
・太郎さんの実力は知っておりましたが他のシンガーさんたちも生歌超いいな。
HIPHOPの造詣がないのでBチームのステージがまったくイメージできてなかったんですが、井出さんめちゃくちゃかっこいい。ずっとRAPしてるのにずっと踊っていてビビる。
あじっこさんの猫ちゃんダンス可愛い~~~
・よしのんの齋藤さん、あの可憐な歌声があの長身痩躯から放たれているの一生慣れないと思う。小型ワンちゃんタイプだと思ってた真珠くんが実は標高170↑もあることくらい慣れないと思う。
・Kはショーテイストがいいな。方向性としては堂本光一ソロに近い(ブラスタの民には『Endless SHOCK』とかいう登場人物が死ぬほどギスギスする舞台を見てほしい。好きだと思う)
・まだいっこも歌ってないのにMCに出てきた人がおるんですけど。
・様、平常運転だな……しかも軽口叩けるくらい打ち解けておられる……。
・様の何気ない行動が何故かフロアの笑いをさそう現象がここでも。
・くらっどねすさんと様という噛み合わない歯車の間ですりつぶされそうな太郎さん。負けないで!
・めっちゃどうでもいいし今さらだけど、名駅ホームのきしめん屋さん、うまいけど立ち食いのテーブルが低いので標高が平均以上の男性はややつらいと思う。どんぶり持ち上げて食うことになります。
・これが噂のマイダンサーズ。
・「マイダンサーズ」と呼んでおきながら別の出演者パートに入るの、ジャケ写のキャラが必ずしも歌ってるわけではないと解らず大混乱だったブラスタ始めたての頃を思い出しました。
・波 来
様 踊
・ほんとにおどっとるが……?!?!!!
・様が踊りだしたのでおれは踊れなくなった。うっすら勘づいていたのに衝撃的な衝撃が衝撃すぎて全挙動が停止したし汗3リットルかいた。
・これ「明人さまがSixTONESだったときの画像ください」のやつだろ
・こんな光景を見る日が来るなんて、10年前まったく全然想像だにしていなかったよ
・畳みかけるようにカプリスが来
・こっちはわかる!! いつものやつに近い!! ちょっとネジ飛ばしちゃったときの様!!
・ダンサーさんたちに次々ねっちょり絡んだり顎クイで誘惑したりしてたんですがあれは……幻覚……まぼろし……?
・いつものに近かったのである程度の平静さを取り戻したが、タオルを無意識でめちゃくちゃ握りしめていて雑巾みたいになってしまった。
・齋藤さんと様のハモ、めちゃくちゃ綺麗に声が重なってて、すごく相性イイんだなと思う。
・様の自由なスキャットは至宝。これ常識。
・いやーーーええもん見してもらいましたわ……ありがとう聖バレンタインさん……。
・※ちなみに明人さまはアレルギーでチョコレート食べられません。
・申し訳ないがその後のPパートあんまし記憶にない
あじっこさんと歌ったのはケイとリンドウの曲か。めっちゃケイっぽく歌ってるとこ、代打の夜光くんを感じる……。
・かーらーの、全力エモーショナル500%の「沈まぬ月」ですよ。
・「音源は生歌を越え、生歌は音源を越える」と豪語する様の真骨頂がこれです。
・「愛した数だけ憎んだ」のフレーズがごっつ好きですね……。
こんな憂いたっぷりな唄うたう負けん気強めの野球好き陽キャ新卒社会人美青年がリアルにおったら人類みんな気が狂ってしまうので、夜光くんが非実在美青年でよかったなと思いました。
・(初見時、周囲のワルワルしいワルメンと比較してあまりに一般人だったからってギャルゲ主人公呼ばわりしててごめんな。)
・あと様が世界征服を企んだりしない陰キャでよかった(これはいつも思ってる)
・ダンサーのかたがコンテぽいパフォーマンスをしてらして、ぼくは様の歌をダンスに例えるならコンテンポラリーダンスだと思っているので、とてもよかったです(かんそうぶん)
・参考:ぼくの一番好きな踊り方をする推しのコンテ→https://www.instagram.com/reel/CdVxC6yJk5n/
・しっとりRAPもいいなぁ。RAPは歌よりも台詞や叫びに近いし、シンガーで唯一歌唱だけでなく声優もリリックライトもこなしているイデさんはもうヒースそのものに見えるんだな。
虹のかなた に 何故おる?
なぜおる?!?!
・旧Pでは?? というゲームの文脈からの衝撃もあったが様オタクとしての10年分の別文脈からくる衝撃で一瞬意識が飛んだ
・ねえこれ「明人さまがHey! Say! JUMPだったときの画像ください」のやつじゃん!!
・2021年、推しが健康になって、2022年推しがアイドルになりました(?)
・やこくんと真珠って辞めJr.なんだよな……ギスギス系シンメで片方脱退して別G配属になって……
・なんか……そういう話聞いたことある気がするもんな……絶賛目ぇ背け中だけどな……
・前に様がアイドルでもきっと推しだよという記事を書いたけど、半分実現してみてやっぱり推しは様だったので、あの記事のただしさが立証されましたね
・真面目な話をすると、夜光くんのスターレスの活動はP時代・P謀反中・K時代(自前・代打)と概ね3期に分かれていて、この公演では全時期の夜光くんの歌を様は歌い分けていたと思います。
・そういった技巧にエモを纏わせ、そこへさらに技巧を重ねてなおエモがにじむ、みたいなパフォーマンスができる。自身のバンドでもそういった演出に長けていらっしゃるので。
・公演によってセトリがだいぶ違うくて沈月は入らなかったりしたみたい。自分の入った公演でここまで幅出すとこ見られたの、とんでもラッキーマンだったのでは。
・アイドルは基本、(多少の偏りや例外はあれど)全員に歌割りを振るので、Pにシンガー多いのは納得なんすよね。
・そんでもって、バンドは基本ボーカルが一番“強い”し、ドルに関しては「“強い”から歌割りが多い」もんなので、パフォーマーとシンガーが分業で、かつシンガーがトップにならないこともあるブラスタはふしぎというか新鮮な感じ(LDHさんではそういうとこあるっぽいな~知らんけど)
あじっこさんがガチオタク目線から演出意図への補助線を引いてくれて、本編シナリオ5ミリくらいしか履修してない新規マンはとっても助かりました。
・実はなんも知らん頃にたまたまサポート欄からフォローしていました、ヒロインレベル200↑のあじさんには平素より大変お世話になっております。
・重めのセトリから怒涛のラップパート。なんであんなに動けるんだ井出さん。そりゃ体調悪くもなるよヒース……
・ダンス中に衣装の布の一部が取れちゃって落ちていたのを、ダンサーさんが踊りの中で自然に回収してソデに投げていたところを見てShow must go onを感じた
・しゃけさんのMCにてCコーナーに入るとのお話が。公演ごとにメイン張るチームがあると知る。
・Cと言われたのに太郎さんのWチームが出てきてまんまと戸惑う(この後のあじさんのMCでゲーム内ストーリーに絡んでいると知る)
・雪花のパフォーマンス、すぐに忠臣蔵とわかったしロックミュージカル時代劇って感じだ
・そこから、ダンサーさんが分かれてしゃけさんと合流し、Cチーム誕生ということらしい。
・ダンサーさんのうち、明らかに「強」の ひとがおって、モクレンさんかな~とうっすら思っていた。
・チームCのダンスはヴォーグとかワック系だなと思うが、モクレンさんのダンスは基礎にジャズ・コンテがあるんかも。
・アリスの世界観のダンスもパッと見てすぐそれとわかるのがいい。トランプ兵の動きが面白かった。
・全員集合アリサマのとき、齋藤さんに小突かれてなんか話してた、と思ったら皆で揃えるダンスが始まって、なぜか様だけフリが入っておらず、がんばって最後の帳尻だけ合わせていた。様、すごいがんばってた。
・齋藤さんは翌日羽田のファイナルでも様をカメアピに誘ってくれたり、何かと世話を焼いてくれていた。ありがとうございます……。推しを差っ引いて全曲中いちばん好きなのは『ひらひらり』です……ありがとうございます……。
 
 

総評。

 
・長生きすると推し盤麺が映画に本人役で出たりLINEスタンプになったりソシャゲのキャラの中の人になってステージで踊ることもある。
 
・10年生きながらえると面白いことが起きるから、みんなも長生きしようネ。
・明人さまのお歌にハマった方は、真空ホロウのライブにもぜひ来てね~ソロも健康もいいよ~。Shh...の仕草したり公園のキッズに手を振ったりシールドで首絞めたりタバコふかしたり段ボール蹴っぽったり謎の実験器具振り回したりちょっとアレげな振りもあるよ~気軽にオイデヨ~。
・ゲーム内の「公演」をリアルに凝縮するとこうなる、という解をもらい、とくにBの解像度は上がりました。ミュージカルのいっちばんいい、トロの部分をメドレーで見るような、凄まじく贅沢な体験でしたね。
・全公演配信とかありがたの極みだな。お~い聞いてるか~~~蔓延防止ナンタラ明けたらパタッと配信せんくなったどっかの事務所~~~!!
・アーカイヴ再販もありがてえんですが、え、円盤のご予定は……????
・結局翌日の最終公演も買って「現時点の実装曲ぜんぶやるまで終われまツアー」というコンセプトだったと明かされたとき、ハチャメチャなエンタメやってんなオイ! と驚いた。推し曲のセトリ落ちがないってスゲーことだよ。
・全公演セトリ違いのツアー、出演者のみなさまお疲れさまでした。
・OP映像や各公演のセトリ、衣装からキャスト立ち位置までゲーム本編を踏まえた演出で趣向を凝らされていて、ストーリーちゃんと履修していたほうがより楽しめたのかな~と5ミリしかわからんマンは思いました。
・ストーリー読みたさはあるんだけども、こう、ソシャゲ紙芝居(ノベルゲー形式)を集中して読む能力が年々日に日に低下していってるので、ええと、あれだ、メインストのノベライズ版出してほしいです! ブラスタくんがッ! 地の文で多種多様なイケ・ワルメンをあらん限りの語彙を駆使して褒めちぎるとッこ見ッてみッたい! そ~れノベライズ! ノベライズ!(あんスタノベライズの思ひ出)

2021年買って良かった音源

序――異変

 明けてたどころか年度も越えてしもうたがな!
 マ~~~ジでこの春は忙しかった。そのうえ記事を書かねばならない案件も舞い込んで(3月頭のアレ)、毎年恒例の記事が大幅に遅れてしまった。
 しかし、書きかけの記事を丸ごとボツにするほと懐に余裕のある筆者ではない。どんなに時期が外れようとも怖じずにアップする、それが我が流儀である。
 それにしても――激動の2021年だった。推しが所属グループを脱退した春。別の推しグループはほぼ全員が疫病罹患者となり、ツアーは延期を重ね、その中でもなんかふつーに運動会的なやつとかやってた夏。それを越えて落ち着いたふりを決め込んでエンタメを再開し暮れた秋・冬。
 この毎年恒例となったこの記事のために改めて振り返った歳末、はたと気づいたのである。今年、ぜんぜん音源買ってない。
 否、後述の理由により回数として買ってはいたが新規開拓がほぼ無いのだ。
 2020年にひき続き現場が少なく、推し盤の活動は活発だったものの、対バン相手からの新規開拓がなかったうえ、推しドルその①は所属グループを脱退し、推しドルその②は音源を発売する身分になく、その代わりにステージ・舞台の場が多かったためそちらに支出がかさんで、オンゲル係数(支出のうち音楽の占める割合を指す。※筆者の造語)は減った。
 そして、その代わりのように、推し盤①は3曲入り音源のオンラインリリースをバンドとソロ名義織り交ぜて半年近く続けるという未だかつてないリリース祭りを開催したうえ、旧知のバンド仲間と別プロジェクトも発足した。
 そんなこんながあって、ここ数年続けてきた音楽記事の中でも今回は段違いに偏った内容となったのである。
 と、言い訳じみた前置きをしつつ、2021年に購入した(※「リリースされた」ではない)音源、参ります。
 

『アヒルアルカナ』『アヒルホスピタル』『アヒル童話』 捻れたアヒル

 のっけから三枚まとめてのご紹介。
 2008年、ボカロP・アヒル軍曹率いる音楽サークルが活動を開始した。1stアルバムから少し編成の変わった2ndアルバム『アヒルアルカナ』はタイトルどおり「タロットの大アルカナ」のうちいくつかをモチーフにした楽曲が収録されたコンセプチュアルなコンピレーション・アルバムであり、翌年、翌々年発売の3rd、4thもそれぞれがあるテーマをもとにした作品集となっている。主な販売経路はもちろん「ボーマス」こと「Vocaloid M@ster」という同人音楽即売会および同人ショップの通販。つまり、ちょっとやそっとじゃ手に入らないインディーズ音源だったのである。
 もう10年以上前のことである。当時のワタクシはといえば、まだクレジットカードの所持も許されていないヤングの身の上。親にオタ全開な通販サイトを見せて「これ買ってほしい」とねだるのも憚られ、指をくわえて試聴用デモ動画を流しながら通販ページを眺めていたわけだ。
 しかし、そんなボクちゃんも大人になった。自分のクレカも持ってるし、頑張って都会に出ていき、同人音楽専門店に行くことだってできる。若人よ、大人になるということは、子どものころ欲しくても買えなかったアイテムを自力で手に入れる術を得るということなのだ。
 そうして、ヤフオクとメルカリと駿河屋を定期的にクロールしていたワタクシは約10年越しにようやく、欲しくて欲しくてたまらなかったアルバム3枚を手に入れることができたのであった。

「タロット」「病院」「グリム童話」そして最新作は「百鬼夜行」——察しのよい方はお気づきだろうが、このテーマで集められたものは一筋縄ではいかない「ねじれた」楽曲である。もとよりこのサークルメンバーは知る人ぞ知る「VOCALOIDアンダーグラウンドカタログ」という、ヒットチャートに載らないがとにかくやばいボカロ曲を紹介する動画でまず紹介されたメンバーが多い。(※かなり刺激が強い動画と音楽なので閲覧は自己責任でどうぞ。)
 あの頃の僕はといえば、毎週かかさず「週刊ボーカロイドランキング」をチェックし、並行して不定期更新の「アングラカタログ」を巡回していた。僕のボカロシーンの理解は「ぼからん」と「アングラカタログ」の両輪から成っていたのだ。ストイックに己の表現を追求するアングラカタログ掲載Pの中でも、「捻れたアヒル」メンバーはその音楽性が評価され、ぼからんの方でも名をあげたPも多数いた。サークルの指揮を執るエモ曲の名手・アヒル軍曹を筆頭に、漫画家としても活躍中のKNOTS(若干P)や、Kous、アイマスフォントMVが一世風靡した『舎利禮文』の鉄風Pなどである。また、イラスト・アートワークには漫画『JKども荒野を行け』の時田も参加している。尖り散らかした個性を放ちつつ圧倒的にキャッチーなボカロPたちの楽曲を聴いてみてほしい。
 
 

『.CALLC.』 古川本舗

 アヒルに続いてこちらも、ネットで見知ったアーティストの音源である。


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 私が初めて古川本舗の音楽を耳にしたのは前段でも話題にした2種のボカロ曲紹介動画のうち「ぼからん」のほうだ。その衝撃は今でも鮮明に思い出せる。


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 エレクトロニカサウンドをのせた独特なラインアートのアニメーションMV『ピアノ・レッスン』(※元動画は削除済)は、雰囲気だけでいえば「アングラカタログ」掲載でもおかしくはない。「ボカロ」のキャラクター性を打ち出してもいない、早口の電波なポップスでも壮大な物語調でもないそれが「ぼからん」にランクインしたのは、ひとえに完成度だったと思う。いい意味で粗削りな、アマチュアクリエイターたちが集うその場に、音も構成もアートワークも段違いに洗練された――「出来上がった」作品が突然放り込まれた。衝撃であった。
 その後、ボカロPとしては引退し、人間のゲストボーカル(この表現も大概謎だな)を迎えるかたちで何枚かのアルバムを発売。2015年に音楽活動全般から引退する。このアルバムは2015年の活動休止前に行われた「.CALL.」アコースティックライブを音源化したもの。もとはデジタルなボカロ仕様で聴いていた楽曲がフルアコースティックのバンド・男女混成のボーカルで表されている。洗練と素朴の交感が面白くも心地よいライブアルバムだ。
 古川本舗は2021年より活動を再開し、新たにデジタルシングルを2曲配信している。再開のニュースを聞き、買い逃していたこのアルバムを購入するに至った。こちらは商業流通作だったので、今でも正規ルートで買い求めることができた。ありがたの極みである。
 と、いうわけで、「理科室コンピレーション アルカリ盤」か「alta mugs E.P」に収録の「sound Agree」正規販売・再録情報、待ってまーす(駿河屋とメルカリをクロールしながら)
 
 

『D RADIO』 鳴ル銅鑼


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余計なことは言わねえ、この夜を踊り狂え!!!!
 
 

『茨城大爆発』 ヒカリノハコ


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 前回の記事でも紹介した、茨城は水戸のライブハウス「水戸ライトハウス」の支援のために立ち上げられたプロジェクト「ヒカリノハコ」の第二弾。総勢25組の茨城出身アーティストによるオムニバスアルバムである。
 世代もジャンルも分け隔てなく、「茨城」のみをコンセプトとして集められたこのアルバムは、「命の灯」ではどうしてもメインを張るベテランと、若手との間に差があったことをふまえて企画されたという。多種多様・バラエティ豊か・ある意味雑多な闇鍋でありつつ、一本芯の通ったそれは、青空の下にただ直立する牛久の大仏様のような潔さだ。当方の推しバンドである真空ホロウはツンデレ気味に地元愛を歌うほのぼのソングで参加している。大先輩との関係性がエモい名曲である。
 今後もヒカリノハコプロジェクトはチェックしていきたいところ。水戸ライトハウスライブ配信設備が整うその日まで!(地方在住者の切実な願い)  
 

『Live From「1st Live Streaming"健診 chapter #0”」』 健康

 その報せは突然だった。


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 宇宙一推してるバンドの公式Twitterに表示された、メンバーによる新プロジェクト発足のニュース。なんともいえない暗い色彩を背景にした、どう見てもおおよそ健康的でない顔色をした白衣の男たち。プロジェクト名は「健康」――出オチと言っては何だが、その時点ですでに面白すぎて最高を確信してしまった。
 メンバーは元々プライベートでの親交が深く、お互いのソロ企画にゲスト出演したこともある真空ホロウのVo.Gt.松本明人とlynch.のGt.悠介。仲良しが高じてユニット結成というが、その計画は数年前から秘密裏に着々と進められていたという。
 このご時世、フロアに人を集めての公演も儘ならぬ。ならばと生配信(演奏パートは収録)で新プロジェクトの1st公演でお披露目し、そこで初めてプロジェクトの音楽性やコンセプトの詳細を説明しようという。「博打だよね(笑)」とはメンバーの談だが、無予習現場なんて当たり前の人間なのでなんの問題もなかった。公演のチケットは即購入した。
 この音源は、その1st配信公演「健診 chapter #0」の音をそのままパッケージングしたものだ。プロジェクトの自己紹介的実験配信ということもあり、楽曲もほぼプロトタイプである。しかしこの短尺の楽曲群が、かえってこのプロジェクトのコンセプトである「映画」の「劇伴」をイメージさせるものになっているように思う。それぞれのバンドでの仕事とはまた違ったサウンドでありつつ、双方に通底する「ほの暗い部屋に一筋の光が差すような空気」と美メロは変わらず発揮されていて、実験的でありながら聴きやすい。あとやっぱ歌が上手ぇ。
 題材にした映画についてのエピソードも明かされている。『アカルイミライ』という2002年公開の映画で、主題歌は真空松本が敬愛する地元の大先輩バンド The Back Hornの『未来』。この映画を観た若き日の松本少年は、映画音楽へのあこがれを抱き、いつか自身も映画・映像と音楽の調和した表現を手掛けたいと願っていたという。その願いを約20年後に叶えたのだ。
 2022年4月、このアルバムではプロトタイプ収録だった楽曲の完成版に完全新曲を加えたフルアルバム『健音 #1 -未来-』が発売される。というかこの記事を書いている時点ですでに手元にあり、それはそれはすごいことになっているのだが、フルアルバムのレビューは来年アップする「2022年買ってよかった音源」で語られるはずだ。その時までしばし待たれよ。

 

『KINDER ep2』『KINDER ep3』『KINDER ep4』 真空ホロウ

 2020年6月に完全リモート収録の音源『KINDER ep』をデジタルリリースした真空ホロウ。翌2021年には同シリーズとして『KINDER ep2』を皮切りに、なんと5か月間毎月、バンド、ソロ名義音源を交互に出す形で新譜をリリースした。(なぜこの3曲入り×4枚のepが全12曲収録のフルアルバム『KINDER』として発表されなかったのかといえば、ひとえに、「毎月なにかしらの音楽活動をしているという【実績】があの期間中に必要だったから」ではないかと私は睨んでいる。)
 様々に事情はあるだろうが、それをさておいても、春から夏の暮れまでにリリースされた音源たちは「KINDER」(子ども心・やさしさ)という主題とともに、移り行く季節に合わせた情景が封じ込められていて、得難い体験を味わせてくれた。毎月のようにリリースがあると、心が忙しい。(楽しいけどね!)
 とくにお気に入りなのは『ep3』の『もしもし』——まさか「もしも死」とは思わんでしょうよ。わたしはこの曲を個人的に、2012年リリースの1stミニアルバム『小さな世界』収録の『週末スクランブル』の令和版として受け止めている。この10年ほどの年月を経て平成から変わった時代のムードのようなものが、歌詞中に語られる死生観の違いで感ぜられるのだ。
 同じく『ep3』収録の『IKIRU』はかぎりなく優しい、人生にそっと寄り添うエールである。


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そんなでいいよ
そのぐらいでいいよ
酒でも呑んで 笑っていたいね
(「IKIRU」/https://www.uta-net.com/song/302342/

しかしその一月後にリリースされた『ep4』の『知らんけど』では思い切り突き放す。


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あなたが夢を語ろうとも
あなたを羨む人はいない
あなたが誰か目指したとて
あなたは其奴に成れやしない
(「知らんけど」/https://j-lyric.net/artist/a05439b/l055752.html

 このぜつみょ~なバランス! これが心地よく、面白かった。
 ずっと「君のようになりたい」と歌っていた真空ホロウが、「あなたは其奴に成れやしない」と歌うのは「僕は君じゃない/君は僕じゃない」からのさらなる発展か。「他者」とべったり癒着していた自己を確立させ、己の足で歩くことを促す(夜の街をひたすら歩くMVにも通じるイメージ)。その手厳しさもまた、ひとつの優しさであろう。
 
 

『Torch.5』『Torch.6』『Torch.7』 松本明人


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 バンド名義リリースの『KINDER』と同時並行でリリースされたソロ名義音源。『Torch.』シリーズはソロ活動期から続くアコースティック盤の名称なので統一テーマのようなものはない。だが、こちらも上で紹介した『KINDER』同様にほぼ隔月のリリースで、春から初夏までの季節の移ろいを感じさせる仕上がりになっている。
 個人的な超朗報はあの名曲『森に還る』『ホーム』がついに正規音源化されたことである。
 ソロ活動を開始したばかりの2015年から、弾き語り公演などで幾度も披露されてきたこの2曲。『森に還る』というタイトルは、松本氏がソロ活動開始前まで使用していたTwitterのユーザIDが「morini_kaeru」であったりと昔から馴染みのあるフレーズで、楽曲の雰囲気も最初期の音源『contradiction of the green forest』『ストレンジャー』のそれと近い(洗練度は各段に上がっているが)。歌詞にもあるように「いま現在の氏」が「少年の頃の自分」を回想しているような作品だ。
 『ホーム』は素朴ながらも優しく、どこか懐かしさのあるメロディと、現代社会を鋭く切り取る歌詞が好きで好き大好きで、(過去に一度、ライブ配信公演のチケット購入特典としてフルアコ版が配布されてはいるが)初めて聴いたときからずっと音源化を待ち望んでいたのだ。
 

 私の記憶では2015年の弾き語りライブが初見だったが、松本氏曰く10年ほど前からすでに存在する曲らしい。そして今回、リリースにあたってそれまでライブで歌っていたもの(特典配布音源の時点)から歌詞に大幅なリライトがなされている。
 1stシングル『Torch.』収録の『ひかりのうた』も、旧体制期ラストツアーでの新曲として各会場で披露される間に「どんどん歌詞が変わっていった」と松本氏は語っている。『Torch.』リリース後、ツアー中のメモの断片と照らし合わせても、抽象的表現から具体的な描写へと変化していく様が見てとれた。『ホーム』も抽象から具体への変化と言えるが、さらに言うならば、「他人ごと」から「自分ごと」へと大きく転換しているように思える。ここですべてを解説するには紙面が足りないので割愛するが、いつかまとまった比較記事を書きたいところ。
 
 新体制になってから発展させてきた最新の楽曲から、ソロ期に披露された旧体制時のテイストを残す曲、それよりもさらに前の、自主製作デモ音源時代の楽曲までが、2021年に『KINDER』『Torch.』シリーズで新規に音源化された。このリリースラッシュによって各時代の楽曲が一堂に会し、それぞれの時代の音楽性、歌詞で語られている物事の変遷と、変化する中でも「変わらずあるもの」が見えたように思う。
 メンバーそれぞれが新プロジェクトを始動し、さらなる変化のただ中にある真空ホロウというバンドを今後も注視していきたい。