王と道化とその周辺

ちっぽけ嘘世界へウインクしておくれよBaby

川島如恵留さまとの対話~1月17日、日本ガイシホール公演の記録~

※開催中のツアーの演出バレを含みます。アシカラズ※
 
 

1月17日水曜日、夜

 Travis Japan コンサートツアー2024「Road to Authenticity」横アリに続いて名古屋は帰ってきたおれたちの日本ガイシホール、2日間3公演の初日である。地元平日公演のさがである退勤ダッシュの果てになんとか同席する方と落ち合い(当初は本当に開演ギリギリの予定だった。JRの臨時便運行に感謝である)、チケットを発券して席についた。目前に広い通路のあるスタンド中腹、最上手ブロック。すぐ脇の階段をみてふと、「ここスタトロのときにメンバーが登ってくるのでは?」と思い立つも、いやまさか私がそんな大接近チャンスのレア席だなんて笑笑笑という謎の遠慮(?)が先に立ったので、同行の方と頷きあってそこは一旦落ち着かせ、大人しく開演を待った。
 最上手ブロックゆえにメインステージはほぼ真横から眺めるかたちになる。これはこれで面白い構図だし、如恵留さまの横顔はミケランジェロの作と名高いし、と呑気にしていたら上手側の超巨大モニターに超大写しになる推しのご尊顔(グラサン装備)。奈良の大仏さまに迫るスケール感であった。あんなに大きな推しの面(おもて)は拝んだことがなかった。これはいよいよ景気がよい。今宵はこの場こそ神席であるとこのとき確信したのであった。
 ……であったのだが、
 

事件はそれだけでは終わらなかった

 ライヴは愉快に進んでいった。昨年のデビューツアーに負けじと頭から踊り狂っているトラジャたち。全体の装飾はシンプルながら、レーザー照明や会場を縦断する大型ステージなどの機構に趣向を凝らし、外周花道なしのアリーナ中を駆け巡る新開発の乗り物「トラッコ」もお召し換えしてより豪華になっていた。彼らにもちゃんと台詞(?)があるのだからトラジャは面白い。
 そんな風にほほえましく眺めていたら、急に目の前がスタッフTシャツの背に遮られた。何事かと思えば、目の前の通路にいそいそと運び込まれ、設置されていくスタンド用のトロッコ通称スタトロ。
 は? と隣を見れば同じく「えらいことになった」とこちらを見る同席者。目の前の通路はスタトロのレーンであり、最上手のそこはまさに搭乗口であった。脇の階段登ってくなんてレベルの話じゃなかった。我々の目の前で、彼らが、これに、乗るのだ。
 あれよあれよという間にメインステージの両サイドからスタンドめがけて二手に分かれたメンバーたちがやってくる。大慌てでうちわの準備をし始める近隣住人にハッとして私もうちわを取り出した。以前つくったものの文字が壊れていたことに2日間の晩ようやく気づき、急遽素材をあつめて作り直した突貫工事品である。細部の作りは荒いが、それでも作っておいてよかった。

「さま」呼びは譲れない

 上手サイドから搭乗し、通りすぎていくメンバーを見送って(思うに、スターなるものものは全体的に造りが小さい。背丈どうこうではなくて、からだのあらゆる部分が0.75倍縮小をかけたくらいに小造りで、きゅっと引き締まっているのである)下手から上手へとやってくる推し――如恵留さまを待った。一瞬のようでいて、永遠のようでもある時間が流れた。
 

~謁見~

 近くにいらしたからといって、何かしらが起きるという期待は特にしていなかった。如恵留さまはピンポイントにリアクションなさることもあれば、広範囲に等しく大きな愛を振りまいてくださることもある。スタトロはスタンドの中腹を通るゆえ、対岸に目を向けていればこちら側は後頭部を拝むのみだ。それでも間近にその御姿を確められることには違いない。一瞬でもお目に止まれば、此処に貴方のファン在り、と伝わるならばそれでよい。そんな気持ちでうちわを構えるのが私の流儀だった。と、そのとき同席の方が「もし(如恵留さまが)来たら、一緒にハート作りませんか?」と誘ってくださった(可愛い)こちらからもエンタメを提供しようという心意気に胸を打たれ、「やりましょう!」と応じた。ていうか発想が可愛すぎた。とても気持ちがいい感じの方で、開演前のコールも曲中のコーレスも積極的でよく声が通る、素晴らしい才能の持ち主であった。私は飲食店で注文をするにも声が通らな過ぎてものすごい挙手でアピらなければならない上、冬場は乾燥で喉がガッサガサになってしまう人種であるので、今回、彼女の存在にかなり助けられたと思う。
 
 果たして、如恵留さまはその優美なる佇まいでもって我々の眼前に降り立った。メインステージ側の照明を背負い、まばゆい光のなかにシルエットが浮かび上がる、一服の絵画である。まさにミケランジェロ、否フェルメールの作だったかもしれない。そんな感慨に浸るなか、ついに彼がこちら側に目を向けた。同行の方と並んで白ペンラ2連でいたので、その場では目立っていたのかもしれない。次いで彼はわたくしの着ていたツアーグッズのスウェットに目をとめ、自身の纏うゴールドの衣装の襟元をちょいと摘まんで嬉しそうに微笑んでくださった。「グッズのアパレルを着ていると如恵留さまはたいへん喜ばれる」との噂はまことであったか! 私の全身を電流がほとばしった。返さねば。目と目が合っているうちに。何か、なにか、なにかを、何を?
 目まぐるしく回転する脳内で、いつか来るそのときのために準備していた「言葉」があったことを、私はようやく思い出していた。幾度もの脳内シミュレーションがあり、幾度かの現場があって、しかしそのチャンスはついぞ来なかった――今の今までは。
 
 私は右手の親指と人差し指でL字を作り、己が顎にもっていって、絞るようにして斜め下に引く、という動きをしてみせた。
「好き」という手話である。
 咄嗟に出たのはただそれだけ。今にして思えば拙いにもほどがあるのだが――恥も外聞もない生身の「好きです」だけがぽろっと漏れた。そんな感じだ。
 如恵留さまは少し目を見張った。そして頷くと、流れるように両の手を動かし始めた。

「いつも」
「見てくれて」
「ありがとう」
「みなさんを」
「愛しています」
 と。
 
 如恵留さまの細く長く美しい手指で素早く紡ぎ出されるそれをなんとか読み取った。如何せんひどくテンパっていたし、本当に手の動きが早かったので(マジで)正確ではないかもしれない。でも、そのときわたくしは、そう読み取った。読み取って、2度目の衝撃に襲われた。返ってきた! レスポンスが! 如恵留さまから!
 かくかくと壊れた赤べこのように成り果てたわたくしに再度微笑むと、如恵留さまをはじめとした上手出発組は我々の前を過ぎ去っていった。さながら初夏に吹き抜ける爽やかな一陣の風であった(中村さんスタイル良すぎんか?)
 それをなかば放心しながら見送ってのち、MCタイムへの移行とともに、色めき立っていた最上手ブロックにようやく平穏が戻った。「如恵留さんと手話で会話してしまった……」と漏らす私に同行の方は「見てました!!」と元気よく応じてくださった(可愛い)。本当に気持ちのよい方だった(「一緒にハートつくる」の件は完全に頭から飛んでいたのでそこは本当にすみませんでした。この場を借りてお詫び申し上げます)
 
 初めてその存在を強く意識した2019年春、ついに肉眼でその御姿を拝んだ秋、それから3年と幾ばくか。わたくしはついに、如恵留さまと「対話」するという偉業を、成し遂げてしまったのである。
 

如恵留さまと手話とわたくし

 如恵留さまが手話に興味をもって表現に取り入れるようになったのは、2020の自粛期間から――ではない。早くは2019年のトラジャ単独公演、如恵留さまのソロ演目『僕だけのプリンセス』で手話を取り入れたパフォーマンスを披露している。それから2020年の疫病下におけるエンタメ自粛期間に、今はなき事務所独自の動画配信サービス「ISLAND TV」にて自身で企画・収録・編集を行った「如恵留と一緒に手話を学ぼう」シリーズ全50回の動画を47日間毎日更新し続け、夏のソロ配信公演ではそれらの動画で題材にした楽曲をセットリストに組み込んだ手話コーナーを披露した。
 全50回に及ぶ動画は昨年末の「ISLAND」サ終によってもう視聴すること叶わなくなってしまったが、普段より少し畏まったジャケットスタイルで動画シリーズにかける想いやこだわりを語った最終回の動画は、如恵留さまの「語り」のコンテンツとして最高に良いものだった。けして「川島如恵留がみなを教え導く」ではなく、「双方ともに同じ歩みでもって学んでいく」スタイルであること。毎日のように動画の収録・編集作業を続けることの難しさと達成感。情報を発信し、それにレスポンスが返ってくることへの喜び。沢山の人と繋がるためには知識や経験が大切だということ。自身の芸能活動は、ファンであるわたくしたちが様々な世界に繋がるような刺激となるためにあるということ。(また、如恵留さまが手話を「言語」として捉え、取り入れていることにも。歌唱しながらのパフォーマンスに手話を用いているけれども、それらがけして「歌」の代用にはならないことも知っているはずで、如恵留さまは英詞曲で英単語を覚えるがごとく、飽くまで歌詞に登場する「単語」と様々な表現を覚えるために、我々の馴染み深い事務所の楽曲を題材にしていたのだ。そして楽曲にのせる「振り付け」にも組み込むことで、ダンスパフォーマンスを得意とする彼らは覚えやすく、忘れないでいられる、そのような意図をも含んでいるのだと思う。)
 この動画だけでなく、宅建士などの資格をとることについても如恵留さまは「皆さんが自分でもできるかも、やってみよう、と思えるような”きっかけ”になれば」と度々語っている。そしてその言葉通りに、ファンの間ではこれらの動画をきっかけに手話の勉強をしはじめ、検定取得を目指す方も多くいる。宅地建物取引士試験の結果発表日のツイッターランドでは如恵留さまに合格報告をする方々が散見されるし(すごい)、最近あらたに国内旅行取扱管理者の資格も取得されたので、そちらを受験する方もいずれ現れることだろう。よい循環が生まれているのだ。
 私はといえば、学生時代の教養課程で半期15回ぶんの授業として「手話・点字」を履修していた(科目名でこの二つが並列されていることからもわかるように、授業の内容は聞こえるし見える教員が聞こえるし見える学生に講義し実践する科目である)つまり、如恵留さまが始めるよりも前に、単位認定で「可」を貰う程度には修めていたわけだ。ただもう十年近く前のことだし、実践の機会が日常的にあるわけでもなく(自ら作ることさえもなく)、基本の挨拶と簡易な自己紹介くらいしかできないレベルまで落ちてしまっていた。彼の動画は復習の機会を与えてくれ、わたくしはジッカに眠っていた教本を掘り起こしたわけである、が。
 ひとつ、後悔していることがあった。今回の現場のほんの数日前、週末に3回目のゲ謎を観に行った帰りの出来事である。
 ナナちゃんのいる駅前の通りに洋菓子屋の露店が出ていた。よく利用するお店の支店であることが宣伝のぼりから判ったので、せっかくだしひとつ購入するかと近づいたのだが、よく見ると、販売スタッフの方々はみな手元のボードや手話でやりとりをしている。どうやら手話話者の常駐しているバリアフリー対応の店舗を新規オープンし、そこから出張で来ているとのことだった。「本店のほうでよく買います」と対応してくださった方の筆談ボードに書き込みつつ、こちらからも手話で応答できればと思ったのだが、いざ目の前にするとまぁー「ありがとう」さえするっと出てこねえ出てこねえ。スタッフさんの挨拶に同じ挨拶をやっと返すくらいでその日は終いになった。一単位ぶんの講義を修め、如恵留さまの動画やライヴ現場であれだけ見てきたにも関わらず、まったくもって不甲斐ない。実践経験の足りなさを痛感した瞬間であった。
 この苦い経験があったから。「この味が好きです」くらい伝えられていたら、と思っていたから。だからこそライヴ会場で、如恵留さまと向き合った瞬間に咄嗟の一言が出せたのかもしれない。脳内シミュレーションよりもずっと痛烈に、切実に「必要」だと思ったし、実際に現場でメッセージを伝え、それに対するレスポンスがあったことによってより強くなった。「もっともっと勉強が必要だ」と。

「好き」に対して「愛している」をファンサとして返すことそれ自体と同時に、「学び続ける姿勢を見せること」もまた如恵留さまの愛である。それによって我々は刺激を受け、より良い人生のための指針をたてることができるからだ。左手で握り拳をつくり、右手のひらでそれを撫でる、やさしげな手付き。そのときの、切ないような眩しいようなあの独特の様子で目を細めた、真摯な表情が、我が目蓋にずっと焼き付いている。そして美しさとは「姿勢」であると、如恵留さまを想うだに実感する。
 
 以上が、わたくしが如恵留さまとの「対話」によって得た感慨の総てである。ってことで、手話、勉強しなおしま~す。

2023年買って良かった音源

 どうも、またまた明けてました。
 全国的にも大変な情勢であるところ(お見舞い申し上げます)、個人的にも年末からこっち色々なことがありすぎて正月感のまったくない新年を迎えることとなり、そのおかげと言っていいのか年始からけっこう時間が出来たので例年よりやや早めにこの記事が仕上がりました。
 恒例の「今年買ってよかった音源」について語る記事。あくまでその年「買った」ものなので最新リリースではないこともあるが今回は比較的新譜が多い年になったかも。また、昨年からのサブスク導入や推しの動きの活発化により大豊作……というか選出がめちゃくちゃ増えてしまった。どれも落とせなかったんだよ~!
 そんな感じで2023年の推し音源、どうぞ。  
 

『すずか』 市松寿ゞ謡

 2023年の新規アーティストでは仏血義理で聴きました、市松寿ゞ謡、ホラー系Vtuberさんです。
 2020年リリースのインディーホラーゲーム『Go Home』が実況界隈でカルト的ヒットを飛ばし、2022年には新作『夜詛YASO curse of soirée』をリリース。今回の音源はこれらのゲームの挿入歌ほかボーカル曲をまとめたアルバムです。
 彼女の存在自体は超人気声優花江夏樹を筆頭に色々なゲーム実況者の『Go Home』実況動画で知ってはいたものの、「これは」と思ったのは『夜殂』のエンディング曲のひとつ『呪い』を聴いたときでした。

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『すずか』に入っているこのフルver.も、夜詛サントラのピアノソロver.もすごく良い。メロディセンスは無論のこと、独特の緩急ある譜割りに乗せられた歌詞に、ゲームの世界観・キャラクターの心情そのままのエモが込もった歌唱。これは令和の戸川純!! と大興奮(したものの動画コメントで誰も戸川純の名前を挙げていなくてマジかよと思った)
 
 年末に彗星のごとく飛来した爆裂キラーヒットコンテンツ「ゲ謎」もあいまって、2023年はホラーへの感度が高まった年だった。
 
 

『Ceramics Runway』 Dept

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 馴染みのアジアン料理屋の店主さんが最近タイのBLドラマにドハマりしていて、タイのPOPSを店内BGMで流していたのですよ。
 めちゃくちゃ良くないですか? 何て言ってんのかも全然わかんないけど、この底抜けな軽妙さ、綿菓子みたいな浮遊感のあるボーカル、これはまるで……かつての渋谷系では?!
 ポップンミュージックにハマりたての頃、渋谷系アーティストとそのフォロワーを一通りさらってその都会的なオシャンさにオシャーとのされていた人間なのですが(スギレオリエさな~と言えばわかる人はわかる)、それがそのまんまタイのアーティストで再現されていることに驚きました。歌詞読めねえどころかタイトルの読み方もわからん、でも曲が良いことはわかる。ワタクシにとって未知の言語であるタイ語で歌われていることによって浮遊感もマシマシです。
 このDeptからタイのPOPSについて調べたところ、タイのインディーミュージックシーンでは渋谷系・シティポップがマジに流行っているらしく、Deptの所属レーベルからはフリッパーズギターのアルバムを丸ごとカバーしたコンピレーションアルバム『flipper's player~タイへ行くつもりじゃなかった~』もリリースされている。(タイトルのセンス~!)
 BLドラマはすっかり一ジャンルとして定着したタイカルチャーですが、タイの音楽シーンもなかなか興味深いです。
 
 

『PiLOT』 DOMi & JD BECK

 2023年のグラミー賞。その授賞式中継番組のリポーターとしてTravis Japanが抜擢された。彼らが司会するノミネート者紹介の事前番組を見ていて、アンテナに引っ掛かったのがこのアーティスト。

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 ドミ&JDベックは最優秀新人賞にノミネートされていた。一聴して「は?」みたいな音楽。ジャンルとしてはミニマルジャズというかフュージョンというかインプロ(即興演奏)というか、それら全部を含んだまったく新しい音楽というか。なんか急に「は?」みたいな音楽を聴きたくなることってあるじゃないですか。その欲求にバチっとハマったんですね~。
 開会前のレッドカーペット、パフォーマンスステージから受賞スピーチまでをグラミーの会場で直接観賞することは、デビュー直後の彼らにとって、多くのものを得られる良い機会となったことだろう。
 それはいちオタクであるワタクシも同じく、ふだん洋楽方面までなかなかアンテナが張れていないので、推しの活動によって見聞を広げられる機会が今後もあるとありがたい。

 

『One Two』近藤花

 音ゲーにハマっていた頃、「このBEMANI曲が好きならこのアーティストが好きかも」を紹介するスレでDormir好き向けとして紹介されていて知ったユニット「Arthur」
 このユニットは2枚の超超超名作アルバムを残して解散したのですが、ボーカルの近藤花さんはソロ名義で活動されていました。「あの解散したバンドのメンバー今なにやってんやろ? 調べてみよ」って急に思い立つときってあるじゃないですか。そのタイミングが今年だったので、今年紹介できました。

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 どんぐり10個が入場料の森の音楽会で聴けそうな歌声。しみじみと癒されます。
 
 

『ゆのもきゅ』yunomi

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 2021年の「今年の音楽」記事でも取り上げたCY8ERのメインコンポーザーを勤めていたのがこのyunomi氏。「あの作曲家ほかにどんな仕事してんやろ? 調べてみよ」って急に思い立つときってあるじゃないですが。そのタイミングが今年だったので今年紹介できました。(調べたところ「SOUND VOLTEX」に収録されているそうだ。BEMANIスタッフのセンスは流石である)
 いわゆるひとつのアキバ系テクノポップ。とびきりキュートでキャッチーなサウンドの中毒性はCY8ERのそれと変わらず良い。『インドア系ならトラックメイカー』が特に気に入っているが、アルバム『ゆのもきゅ』にはCY8ERを聞いていたらおっと思うようなフレーズの隠れた楽曲もあったり、世界観のリンクがあるようにも思えてオタク心をくすぐられる。
 
 

『GARAKUTA』 ぼっちぼろまる

 ピカチュウポケカカカカポケポケカカチュウチュウピカチュウEXピカチュウポケカカカカポケポケカカチュウチュウピカチュウEXピカチュウポケカカカカポケポケカカチュウチュウピカチュウEXピカチュウポケカカカカポケポケカカチュウチュウピカチュウEX...
 
 ってCMで聴いてるうちに耳から離れなくなってアーティスト名調べてまんまとドハマりしちまったよ! 『ぼっちのうたⅠ』もかなり聴いたけど『ひとりぽつり』があまりに名曲すぎてこっちに軍配が上がりました。トラジャがこの曲で踊ってるとこ見てえー!

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 CMのギターサウンドを聞いたときはこれが令和のテケテケロックか! と思ったが歌詞中のカルチャーはめっちゃ平成ですね(それはそう)
 にしても、覆面歌手増えたなぁ。
 
 

『2009-2023 AllOfPeakedyellow's CreativeActivities/AsWellAsLife/ItsEnd/AndRebirth.』 preakedyellow 

 ワタクシがpeakedyellowと出会ったのは2009年、ニコニコ動画はボカロブームの真っ最中、一昨年も紹介した「アンダーグラウンドカタログ」で紹介されたときでした。

 
 衝撃だった。
 初音ミクに自バンドの曲をカバーさせるアーティストはいた。初音ミクのために作った曲をセルフカバーするアーティストもいた。初音ミクと一緒に歌う」アーティストは当時(おそらく今も)珍しかった。
「ミクと俺」の俺氏のブルースロックな歌声に、ダンスとロックの音楽性に、猥雑、退廃、泥と汗となんか色々な汁にまみれた中の一匙の純粋さを描く世界観に魅せられて、気づけば十数年――ぶっちゃけ最推しバンドよりも長く聴いている。

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 そんな彼がついに今年、ベスト盤をサブスク配信リリースしたのだ。ずっとニコニコやSoundCloudで無料配信されていて課金の機会がなかったので、これを機に推しアーティストへできる限り還元したいところである。
 
 

『ニューヨエコ』 ヨエコ

 2023年、ヨエコが、俺たちの倉橋ヨエコが帰ってきた。

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 マジの朗報であった。2008年の「廃業」から15年の時を経て帰ってきたのだ。
 最推しバンド真空ホロウのサ終に際し、6月にあげた記事内でも話題にしたばかりだったのでタイムリーさに震えたものである。
 復帰の報せののち、当人のインタビューで語られたこの15年間の出来事は並大抵のものではなかったし、それは今もなお続いている。
 それでも、それでも彼女は再び歌うことを選び、これからも歌いたいと願っているし、ファンはアーティストの健康を気遣いつつ、これからもその音楽を聴きたいと願っている。これほど幸福なことはないだろう。
 少し昔話をしよう。
 私がヨエコ――倉橋ヨエコと出会ったのは2007年だったか、インターネッツカルチャーの中心がニコニコ動画だった頃、動画クリエイター・エジエレキ氏によるアニメ『夜な夜な夜な』(を当時の自ジャンルで手書きパロした動画)であった。あの頃、手書きMAD動画やボカロカバーの引用元となりネットオタク界隈で名を知られるところとなった楽曲・アーティストは多い。著作権的にはほぼアウトであるものの、そういったアングラカルチャーから様々なクリエイターが生まれたことは間違いないだろう。そんなニコ動の文化でもある、動画につけられる検索タグ。その中にヨエコ関連の動画でもよく見られた「ポガティブ」というタグがある。「ネガティブなのかポジティブなのかわからない動画によくつけられるタグ」とニコニコ百科事典ででは解説されているが、私はこれを「ネガが行き着くところまでいったとき、一転してポジに向かう力学」のことを表していると考えている。私が好むのはこの「ポガティブの精神」をもつアーティストで、真空・松本氏の楽曲にも同じものを感じていたからこそ、6月の記事でもヨエコの名を出したのかもしれない。
 さて、せっかくなので楽曲についても触れたい。完全新曲『ドーパミン』を除いて、収録されているのは廃業前の楽曲のセルフカバーだ。先述した『夜な夜な夜な』と同じく『卵とじ』もまたニコ動の手書きMADカルチャー界で有名な楽曲で、ファンがどこから広がっていったのかを熟知していることがうかがえる。『夜な夜な~』『昼の月』のアレンジは原曲よりもジャズやタンゴの色が濃く、『友達の唄』『卵とじ』は華やかに、ラストを締め括る名曲『楯』 もより壮大になっている。再起を言祝ぐかのように。そして新曲『ドーパミン』――「この傷たちと生きていく」まさにポガティブの体現である。
 去る神あれば還る神あり、という年になった。いつの日かまた、ライヴの現場でヨエコの歌が聴けることを願ってやまない。
 
 

『◎MNIBUS(+未来完全版)』 健康

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 検索しづらいアーティスト名ランキング第1位の座をほしいままにするバンド「健康」(大嘘)
 の、最新リリースは2022年中から披露されていた映画『アカルイミライ』モチーフの5曲に新曲を加えたミニアルバムである。
 2022年発売のアルバム『未来』の世界観を引き継ぐ「未来 完全版」パートの新曲は、映画のディレクターズカット版のごとく、本編からは尺の都合でカットされたシーン群といった様子。具体的には、淡々としすぎてやや冗長な日常パートや、年齢指定の範囲に収めるために本編では控えめに抑えたバイオレンスシーンなどをイメージさせる楽曲群だ。個人的に好みなのは『繋縛』。『偽物』のライヴパフォーマンスもよかった。
『未来』リリース後、次回のリリースは現場で披露されていた「完全版」曲のみになるかと思っていた。が、予想に反し『◎MNIBUS』と題した枠で新たに3曲が追加されていた。こちらも元ネタとして映画を引用した――ようは二次創作であるが、3曲はそれぞれ別の映画を引用している。『告白』『怒り』そして『怪物』。奇しくも3本すべてが、複数の人物に視点を移り変わりながらストーリーが展開していくオムニバス形式の作品だったことをして、このタイトルになったという。元ネタ作品自体の不穏さを惜しみなく再現した、心ざわつくサウンドがたまらない。
 今作の白眉はやはり『怪物』を元ネタにした『Monster』だろう。この音源の元ネタが明かされた後に、たまたま某百貨店のミニシアターで上映されることを知って観に行き、理解した。映画ラストシーンのあの、あの空気感が、『Monster』には見事に閉じ込められていたのだ。松本氏はこの作品の制作にあたって、思い入れの強さがゆえに一度は挫折しかけ、それでもなんとか完成にこぎ着けたのだという。それくらい心を込めて作られた楽曲であると、原作を観て頭でなく心で理解できた。やっぱエアプよりちゃんと原作履修したほうが良いよね!(そういう話?)
 
 まだまだ走り出したばかりの健康プロジェクト。一本の映画をフルアルバムにする「大テーマ作」と、一本を一曲にまとめたシングルの「オムニバス作」を交互にリリースしていくサイクルはいいかもしれない。
 
 

『Roed to A』 Travis Japan

 昨年、シングル『Just Dance』で配信デビューを果たしたトラジャ。レーベルがHollywoodに本社を置くCapitol Recordというイレギュラーもあり、その後のリリースがどうなっていくのかが目下の気がかりではあったが、2023年明けからツアーでは新規に3曲、5月~6月にはシングルにEPと順調に配信音源を発表し、ツアー円盤も発売、12月にはついに全国流通の物理盤として1stアルバムをリリースした。

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 この1年はまぁ~色々な色々があったわけですが、それについては別記事であらかたブチ切れ……ブチまけておく予定なのでそっちで読んでいただくとして。トラジャ単体としては粒ぞろいの作品に恵まれ、レーベルや配給(ユニバ)の進めるプロジェクトが手堅くあること、トラジャが貪欲によりよいパフォーマンスを求めて修練を積んでいることがわかった。ド派手なデビュー曲から一転して2ndはクール&シックにまとめた『Moving Pieces』(MVはジャミロクワイリスペクト?)、ノリノリファンキーな『Candy Kiss』、チップチューン+EDMの『LEVEL UP』など、シングルは流行のレトロ路線を踏みつつ、トラジャの本分としてのショーテイストジャズ『Swing My Way』から、バキゴリな“今風”HIPHOP系EDM『99PERCENT』、さわやかなミドルテンポのPOPS『Okie Dokie!』『Keep On Smiling』などもあり、ジャンルは幅広い。アルバム新規曲で個人的におススメなのは『Till The Dawn』だ。AOR歌謡つーのか、邦楽がいちばん芳醇な香りをただよわせていた時代の歌謡曲のスメルがぷんぷんする。「うたコン」みたいな番組でベテラン司会者にイントロ尺ぴったりのコメントで紹介されながら生オケで聴きてえ~! (と思ったけどイントロそんなに長さなかったわな)
 今回のアルバムは4形態に分かれ、FC盤にはメンバーを3組に分けたユニット曲がつき、一般流通版には通常盤に加えてJr.期の楽曲がボーナストラックとして付属する特殊形態もある。ユニット曲と過去曲音源化はオタクが長年待ち続けていたそれで、「わかっている」なと思うし、このところの情勢で先行き不透明な中、今やれること一通りやり切ってしまおうという強い意志が感ぜられた。この申し分ないボリュームなら、向こう3年アルバムが出なくても一向構わないと思えた。事をすべて落ち着けて、彼らが恙なく活動できるよう願ってやまない。
 
 

『REBIRTH』 松本明人

 2023年2月18日をもって17年あまりの活動に幕を降ろした真空ホロウ。
 その活動を10年あまり追いかけて終幕を見届けたのち、ギターボーカル松本明人氏がKANZENソロ名義活動を再開するまでの2週間についてはこちらのクソエモ1000%記事にもまとめた通り、私はツンプルに落ち込んでいた。この10年を共に生き抜いた(と、言ってもいいだろう)アーティストが行方不明状態であることが、これほどメンタルに響くとは。まぁ、蓋を開ければ3月頭に彼は帰還したため、空白はたったの2週間ほどだったのだが。あれは人生でもっとも長い2週間だった。

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『REBIRTH』と題された新作はラストライブから約半年後の10月18日は松本氏の誕生日にリリースされた。「生まれてしまった」というサビのフレーズが強烈な『再生のパレード』から、「止めることすら止めた」『REPRISE』まで、一気になだれ込んでくるエモの嵐は私の10年の積み重ねゆえで、全曲通してそこかしこに、これまでの様の断片が散らばっていることが「わかってしまった」。
 細かい部分を挙げていくとキリがないので大きな要素から見ていこう。まず、収録された19の楽曲タイトルが真ん中の反復記号(楽譜で使用する音楽記号)を基点に線対称で構成されている。これは様のリスペクトするアーティスト・椎名林檎へのオマージュで、インディーズ期のミニアルバム『Contradiction~』も同じ手法を使っている。また、楽曲のもつテンションも同様に、序曲『REBIRTH』から『反復記号』へと波を作り、そこから終曲『REPRISE』に向かって収束していくような対象の構造がある。捉え方には個々人によるのだろうが、これによって「陰陽陰」あるいは「躁鬱躁」のサイクルが見えてくるのだ。さらにCD盤では、曲間のブランクが限りなくゼロになるよう調整されている。これらの細工は誰もがサブスクサービスで、単曲や他人のプレイリストを拝借して音楽をもち運ぶ時代には意味を成さない(気づかれもしない)、無駄なこだわりなのかもしれない。それでも2021年の配信リリースラッシュ後に「やっぱりCDも欲しいから」と会場限定盤もリリースしたほどの様だから、物理盤ならではの要素を封じ込めたのだ。
『REBIRTH』――再生というタイトルもそう。バンド活動を終了し、ソロアーティストとして「生まれ変わった」こと、音楽をプレイヤーで「再生」することのダブルミーニングだろう。加えて、「リバース」という音には「REVERSE」――「逆再生」の意味もある。「再生」と「逆再生」が似た音で表されること(「音楽をplayすること」に「再生」を訳語として宛てたこと)の不思議に松本氏が気づかないわけもなく、11月からのアルバム引っ提げツアーでは19曲目『REPRISE』から始まってアルバムの曲順を遡り、ラストにもう一度『REPRISE』のワンフレーズを歌って終わる、という構成・演出だった。つまり、どちらから見ても成立するトランプの絵札のような構造をもったアルバムなのである。
 無論、真空時代にあまり触れていない新規層にだって楽しめるクオリティは保証されている。とあれば、過去の断片はただのファンサービスではなく、今、なうの様の自己紹介としても機能することになる。王道UKオルタナロックもあれば後期真空にも見られたエレクトロポップス、純然たる様の趣味に近い実験的ノイズミュージックも、木漏れ日のようなタッチのミディアムバラードもあり、ジャンルは多彩。私は後期真空の発展系のような『月まで一五〇日』、個人的に「様2.0」と勝手に思っている『延長戦(組曲)』が好きですが、心臓を鷲掴みにされたような感覚で情緒が千々に乱れるのはやはり『再生~』『復讐~』のシンメですね(アイドルみたいに言う)さきに紹介したヨエコの新曲「この傷たちと生きていく」とも重なる「傷を歌にしちゃえばいっか」の『復讐~』(結局!)、ライヴでの『再生~』はまさに産声というような絶唱で肌にビリビリきた。ああ、ここへ還ってきたんだ、と思った。
 
 11月の公演後、物販横で我々の見送りに出ていらした様と、少しだけお話をする時間を賜った。そのとき会話のなかで様は「(音楽を)やらずにはいられないんですね」と笑ってお話しされ、私はそれが心底嬉しかった。どんな環境にあっても、どんなかたちであっても、言いたいことが沢山あって、表現することをやめられない、根っからの表現者私はどの分野でもそんな表現者たちが好きなのだった。
 なにはともあれ、また逢えて嬉しいです。来年もきっとこの場所で語らせてくださいね。  
 

もう一度生きるための音楽(松本明人『REBIRTH』発売によせて)

 配信開始の18日深夜0時に端末へDLした。そのまま聴き始めることもできたが、一晩寝かせることにした。新しい朝にこそふさわしいと思ったからだ。

 ちょうど8カ月前の2023年2月18日、真空ホロウというロックバンドが17年あまりの歴史に幕を下ろした。
17年を真空ホロウとして生きてきたギター・ボーカルの松本明人は、その翌日には個人SNSアカウントのログをほとんど削除し、アイコンの写真をブラックアウトさせた。そして完全に沈黙した。
 彼が投稿を再開するまでの間、私は普通に具合を悪くしていた。もちろん、氏が音楽活動を続けることは理解っていたし、己にそんなかわいげが残っていたのかと今となっては思うのだが、10年以上追っていた推しの消息が知れないことは、それくらい堪えていたらしかった。
 2週間の沈黙を経て、3月1日、彼は突然帰ってきた。新曲をぞろぞろ引っさげて。

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 相変わらずの歌声だった。「この声しかないなぁ」と思った。具合は立ちどころに良くなった。
 
 
 それから8カ月。完全なるソロ・アーティストとしての初のツアーが告知され、ツアーにともなっての新アルバムのリリースが発表された。
「REBIRTH」。配信リリース日は10月18日。氏の誕生日のその日である。


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 Rebirth。再生。「生まれ変わる」――「もう一度生まれる」という意味だ。奇しくも一昨年、転職(部署移動?)した別ジャンルの推しが転職後の初仕事で自死を選ぶ役柄を演じたため、そのようなテーマで記事を書いた
 そして今年、氏はバンドからソロへと転身した。ついでに私も転職した(この件については後日また)なるほど、環境を大きく変えることは「生まれ変わり」に等しい。ある一面においてはそうなのだろう。しかし――それだけでは終わらない感慨がこの曲にはある。「再生」は「生まれ変わる」だけでなく「音楽をPLAYする」という意味もあわせ持つ。得意のダブルミーニング。愛してやまない「結局」のところ。綺麗に整列され、線対称に配置された楽曲タイトル。各々が好き好きにプレイリストを組み換え、単曲で聴くことに特化されたシステムの中でほとんど無意味になったこだわり(某アーティストへのリスペクト含)は、「CD世代なんですもの」と語る姿を思い出す。ええ、ええ、わかります。私もですよ。
 
 今日の朝、私は通勤の道程で「再生」ボタンを押した。空は見事な秋晴れで、涼しくて、過ごしやすい気候だった。氏が生まれたのもこんな日だったのだろうか、と思った。よく晴れていて、うららかな春の陽気でも冴えすぎる冬の朝でもない、ちょうどいい季節。そこにぴったりとフィットする音楽が流れていた。
 
 再生日(バースデイ)おめでとうございます。あなたに再び会えたことを、本当にほんとうに、嬉しく思います。